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9-32 恩恵

「やったじゃねぇか」

「ベイン?」


 炎が鎮まり、寒さを取り戻しつつある訓練場にベインが入ってきた。


「お前が絡むと早いな。もっと引きずるかと思ってたんだが……まあ調子が戻ったなら良かった」

「見てたんだ?」

「邪魔しちゃ悪いと思ってな。終わるまで待たせて貰った」

「付き合おうか?」

「いや、見てくれるだけで十分だ。むしろお前の意見が聞きたい」

「ん?え?」

「……普通に話そっか」

「だな」


 互いに魂を視れるので会話をいくつも言葉を飛ばして進行させていく。


 要件としては、剣の鍛練をしに来たが邪魔にならないようにこっちが終わるまで待ってた。

 どうせなら練習相手になろうか?という提案に対し助言をくれという返答が来た。


 ……と、いうのを視れないヒナはちょっと会話に置いていかれている。


「いやな、最近はちょっと方向性を変えてみてるんだ。武器を新調して遠距離、範囲攻撃ができるようになったのはいいが、それじゃお前らに置いていかれるだけだからな。一体一想定の使い方を模索してるとこだ」


 役割分担をもっとハッキリさせたい──というより自分にしかない強みをもっと前面に出したいってところかな。


「──ハッ!」


 軽く数回、両手に握った刀を振る。

 魔術は使ってない。人工聖遺物の機能も使ってない。


 なのに、目で追えない。


 《空間把握(グラスプ)》を何重にも使えば反応できるかもしれないけど、肉眼じゃどう頑張っても捉えられないレベルの速度だ。


 予備動作が小さい?いや、そもそもの剣速が速すぎる。


「どうやって……」

「鍛え直す時間がなかったからな。ちょっとズルした」

「ズル?」

「まあ視てみるのが早いだろ。ほら」


 そう言うと、ベインは胸元のあたりを指差す。

 その位置には、魂があった。


 相変わらず綺麗な色だ。あれから術式に調整を加えてフィルター機能を付けてるから、外側のまとわりついてる魂は見えずにベインの魂がよく見える。


「あー、そっちじゃなくてな」

「えー、嫌なんだけど」

「???」


 魂を視ることができないヒナを置き去りに会話が進んでいく。

 そっちじゃない──つまり、外側のまとわりついてる方、汚濁に答えがあるということらしい。


「はぁ……」


 軽く覚悟を決め、フィルターを外す。


「うぇ……ん?」


 ()()()()。それが、最初に抱いた感想だった。


「これ……」

「ああ。()()()


 弄った。確かに、そう言った。


「別にお前が思ってるようなことはできないさ。ただほんの少し動かして振り直せるだけだ」

「……要するに、お祈りで振り分けて吸収した魂を自分で調整し直せるってこと?」

「そういうことだ」


 手元のリソースを目的に沿い、効率的に調整した結果が今のベインの身体能力ということ。

 けど、本質はそこじゃない。


 言ってしまえばその能力は魂に干渉する能力。今私が欲しい力だ。


「もちろん振り直しただけだから、新しい能力を伸ばすためにもともとある能力を犠牲にしてる。俺の場合は補助魔術に必要な魔力を残して魔力の最大値を減らしてる」

「その分筋力や体力に割り振った、と……」

「そういうことだ。別にこの目があればそう難しい技術じゃない。魂の位相──波長や次元って言い換えてもいい。それに合わせ調整した魔力なら簡単に干渉できる」

「なるほど……」


 いいことを聞いた。後で試してみよう。


「んーっと、つまりベインは魔術が下手になって剣術がさらに得意になったってこと?」

「まあ、ざっくり言うとそんなところだな」


 会話においていかれてたヒナが、かいつまんで要約する。

 魂うんぬんの話を除けば、概ねそんなところだろう。


「というかそのざっくり以上のことは俺にもわかんねぇな。そもそもどういう仕組でこの魂が俺達を強くしてるのかわかんねぇし」

「確かにそういう話聞いたことないよね。いつもお祈りしたら強くなってるって不思議だったもん。まあ私は勝手に増えてたけど」

「教会に昔から伝わってる術式らしいけど……まだ詳しい仕組みは解明されてないんだよね」


 spわお祈りで振り分けて自分を強化する。それ以上のことは大してわかってないのだ。


「ま、魂を切って貼り直せば恩恵がある。それだけわかってれば十分だろ。どっちみちそれ以上はわからねぇんだし」

「そういうの私は気になるんだけどなぁ」

「俺に期待すんなよ?お前にわからねぇなら俺にもわからねぇんだから」


 自分で試行錯誤するのも楽しみの一つだし、そこは自分でなんとかしよう。

 というか記憶の解析には必要になるんだし、調べるしかない。


「とまぁ、ズルの内容はこんなもんだ。役割分担って割り切って魔力削ってるから、あんまり魔術は使わせんなよ」

「了解。今度から風属性は私が担当するよ」


 それがベインが選んだ道なら、私が口を出すのはただの邪魔だろう。


「あ、そうだ。お前らマルクが探してたぞ」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ引火しかねない場所であんな火柱立てたらギルド長として注意の一つくらいするだろ。ま、目的はそこじゃないだろうがな」

「わかった。ヒナ、行こ?」

「うん」


 ベンチから立ち上がり、ギルドの中に入っていく。



 マルクの言いたいことが、小言なのか心配なのか、お祝いなのかは聞いてからの楽しみにしておこう。

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