9-26 邂逅
「ん……やっぱり……」
二人目が残したメモも一通り読んでみたけど……やっぱり夢で見た内容だからか内容があやふやだな……
記憶を引き継いだからなんとなくは覚えてるけど、やっぱり夢で見たっていうこともあってよく覚えてない。
アルの術式で読み取ってみたけど……どうもこの情報、私の体にはないみたいなんだよな。
なんとなくどこにあるのかもわかってるし、うっすら見えて入る。そしてこの情報を渡しに渡したのが愁人ってことからもうほぼ確実にわかってるんだけど……魂への干渉は、まだよくわかってないんだよなぁ。
愁人が渡してきた黒幕の情報は私の魂に結びつけられている。それはわかってるんだけど、どうやって読み取ったらいいのかよくわからないのが現状だ。
あのとき、擬似的に魂への干渉を再現できたのは自分の精神世界という一種の夢を見ているような状態だったことに加え、対象を自分自身に限定したからだ。
今その条件を再現し、もう一度使えるかと聞かれると、多分無理と答えるしかない。
そもそもあの状態になったのが二つの人格が共存するとかいう極限状態だったわけで……
……ん、待てよ。もしかしたら人格が二つある状態自体は再現できる?
あの状況は二つの人格が共存し、自分の精神世界という自己の魂へより直感的に干渉できる状況だった。
人格が二つある状態自体は自分の脳みそで処理してたんだから経験としては無意識のうちの残ってるはず。
なら、その経験をアルの術式で読み取って、その情報を桜華の術式で肉体的に再現する。
精神世界に入る方法については一から術式を構築するしかないけど……明晰夢を見る術式と解釈していいなら作れるかも……?
というかこれなら二重人格状態を再現する必要はないかもしれないけど……まあ実験するなら状況はできるだけ状況は再現するべきだよね。というか必要ないならないで次からはやらなきゃいいだけの話だし。
よし、となるとまずは術式の構築から──
「……ん?」
今はギルド内に規模を絞ってる目に反応があった。
「……よかった」
帰ってきた。金で縛り上げられた連合に巻き込まれた二人が。
そのことに気づいたときには、もう動き出していた。
真っ暗な、深夜の明かり一つない廊下を迷うことなく走っていく。
目指す場所はただ一つ。思考にノイズはなく、これまで思い悩んでいたことはさっぱり忘れ、友人の帰宅を迎えるということだけを考えていた。
「いた!」
「え!?なん──」
「──おかえり!」
「──ただいま、レイチェルちゃん」
こうしてちゃんと言葉を交わすのはいつぶりだったかな。
ここ最近は記憶がなくて守られるだけの立場だったり、ようやく戦う理由を見つけて回復したと思ったら迷宮に連れて行かれてたり、ちゃんと話す機会がなかった。
けど、やっとこうやって言葉を交わすことができた。
やっと、四人全員が帰ってこれた。
「おはよう」
「ん……おはよう……」
朝日が差し込むベッドの上で二人、目が覚める。
えーっと……うん、覚えてる。昨日は確かあのままヒナの部屋で寝落ちするまで話したんだった。
そしてそのまま同衾、と……
「ヒナ、ボタン外れてる」
「んぇ?あ、ほんとだ」
「ほら」
「……ふふ、ついこの前までは私が着付けする役だったのに」
「もう元気になったからいいの〜。寒くない?」
「大丈夫、よいしょっと」
ベッドから降り、私服に着替えて酒場に向かう。
「おはよう」
「おはよう、ベイン。早いねぇ、普段は一番最後なのに」
「うるせェ。まあ、その色ならもう大丈夫か」
「色?というかその──」
「あれ、俺が最後か」
「あ、おはよう!」
「おはよう」
「お腹へった〜。行こ!」
「う、うん」
ヒナを先頭に酒場に入っていく。この光景も、ちゃんと見るのは久しぶりだな。
「レイチェルは何食べる?まだ味覚は戻ってないんだろ?」
「うん……その、色……」
ベインの魂の色が揺れ動く。そのことを考えたことに呼応してまた変色し、同じ工程を踏むたびに色が移り変わっていく。
「──はい、お願いします」
「かしこまりました」
マルクが注文を済ませ、ウェイターが離れていく。
「……ねぇ、流石にもう聞いていいよね?」
「おう?」
「ベイン、その左目……いや、その眼帯、どうしたの?」
目覚めたときからその光景だったから逆に気づかなかった。記憶がないからこそ気づけなかった。違和感を持つことができなかったから気づけなかった。
ベインの左目は、眼帯に包まれていた。