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9-22 ウォーミングアップ

「ん……これはこっち……あれ、この本どこから持ってきたんだろ?」


 ジャンルもバラバラ、サイズも著者もバラバラな本を整理しては棚に戻していく。


「……うわ、これほぼ『シュレディンガーの猫』じゃん」


 手元にあるのは思考実験とか哲学的な内容を詰め合わせた内容の本だ。

『シュレディンガーの猫』とか『ラプラスの悪魔』とか、前世で見た事あるようなレポートだったり与太話だったりがまとめられた小難しい一冊だ。


 読んでみると意外と面白かったみたいだけどよく読む気になったな……


 曰く、箱の中の猫は不確定な存在であり観測するまでその存在の概要は証明することができない。

 曰く、物体を構成する粒子の全てを観測することができるならば未来を計算することができる。


 意訳するとこんな内容だけどほんとよく読む気になったよね、これ。


 でもなんでもいいから知識を身につけてヒナ達の重荷にならないようにしたいって二人目の感情が伝わってくる。

 ……この知識は大切にしよう。


 この本を拡張収納(マジックバッグ)に仕舞い、残りの本を本棚に片付けていく。


「……よし、とりあえずこんな感じかな」


 散らかっていた書斎の整理整頓を終え、近くにあった椅子に腰掛ける。


「大丈夫か?」

「うん。……でも、ちょっと体力落ちたかも」

「まあ寝たきりの状態から一般人として過ごしてたんだ。今まで迷宮に潜ってた頃と比べたら体力は落ちてるだろうな」

「だよねぇ……はぁ……」


 わかってはいたけど、少し動いただけで疲れを感じるのはちょっと悲しくなってくる。

 体力戻さないとなぁ……


「……ねぇ」

「何を言いたいかはわかる。けどやめといた方がいいと思うぞ」

「ちょっとだけ、ちょっとだけだから、ね?」

「もうかなり冷える時期だ。こっちは特に寒い。病み上がりだし無理はしない方がいいと思うが……」

「今できることを確認するくらいだから大丈夫。それにマルクの腕、いろんな機能を仕込んだんでしょ?それちょっと気になるなぁ」

「……ほう?」


 引っ掛かったな。

 折角お金かけて作った物だもん。自慢の一つくらいしたいよねぇ?


「それに今お昼で暖かいタイミングだと思うし、ね?」

「むぅ……はぁ、仕方ない。一回だけだぞ」

「よし」


 いい感じに言いくるめられたな。とりあえず対戦相手は確保っと。


「……ふふ。なんか懐かしいね」

「そうか?」

「マルクと模擬戦なんていつぶりかな」

「そうか……そうだな。もう長い間やれてなかったな」


 軽く体を動かすという意味でも、鍛練という意味でも、ベインやヒナとはそれなりに手合わせをしてた。

 けど、マルクは離脱してたからこうしてやりあうのは前回からかなり期間が空いてる。

 ……楽しみだな。


 そんなことを話してるうちに、いつもの広場に出る。


「ルールは?」

「いつも通り全力でやって。あと武器は怪我しないものを使って寸止めね」

「わかった。何回も言うが無理はするなよ?」

「わかってる。やばそうだったらやばそうだったらちゃんと降参するから。武器作ろっか?」

「いや、大丈夫だ」


 義手が変形し、分離するようにして一振の剣が作り出される。

 水晶をベースにしてるからこその自由度なのかもしれない。……面白いな、それ。


 私も氷で刀を作り、構える。


「じゃあ、行くぞ」

「うん」


 剣を右手に持ち変えたマルクが一歩、踏み込んでくる。


「はぁっ!」

「速っ……っ!」


 予想以上に速い斬り込みをなんとか防ぐ。

 これは……かなり鈍ってるな……


「《雷電(ライトニング)》!」

「っ!?」


 防がれた剣をもう一度振るうのではなく、その左手に魔力を纏わせ振り抜いてくる。

 それを寸でのところで後ろに跳ぶことで回避する。


「あっぶな……それが左腕に仕込んだっていう機能?」

「これだけじゃないぞ。《火炎(フレイム)》!」


 左手から五つの火の玉を作りだし、私に向かって撃ってくる。


 雷の次は火……これくらいならまだ避けられるけどさっきみたいに不意打ちで撃たれたら避けられないかも……


 ……ふふ。どんな作りにしたんだろうなぁ、面白い。これは負けてられないなぁ。

 私だって新技思い付いてるんだ。一つくらい仕返しに食らわせてやる。


「《飛翔氷剣(フロスト・ソル)紅血騎士団(ブラッドレギオン)》!」


 私の血を混ぜ、紅く染まった氷剣を作り出す。


「いっけぇっ!」


 試作品の三本を纏めて射出する。

 さて、上手くいくかな?


「ふっ!」


 一本目と二本目が弾かれ、三本目は左手に捕まれて破壊される。


 強度はまあ仕方ないとして……本命はここからだ。


「ふふっ、今!」

「っ!?」


 弾かれた二本から魔弾を放つ。


「これは……新しいのを作ってたのか」

「記憶を失ってるときに作ってくれてたの。まあ二つ組み合わせるのは初めてだけどね」


 仕組みとしては魔力を混ぜた自分の血を混ぜることで、血属性魔術を活用して擬似的に自分の体の一部として扱い、混ぜた魔力を使って魔術を行使できるようにする。これのお陰で先に魔法陣を刻むというまどろっこしいことをしなくてよくなった。

 ただ、ここで混ぜられる魔力量はそう多くない。

 けど、二人目が作ったこの魔弾めちゃくちゃ燃費がいい。だから手軽に撃てる攻撃として丁度いい《飛翔氷剣(フロスト・ソル)》の強化パーツにできる。

 あとついでにある程度の自己再生能力も付けることに成功してる。


 初見殺しが決まったお陰で魔弾が数発当たってる。

 殺傷能力は控えめの制圧用、当たったら凍る弾だから直接的なダメージには繋がってないけど邪魔にはなる。


 だかは、これはきっと避けられない。


「起爆っ!」


 事前に仕込んでおいた魔法陣を起動し、握り壊された氷剣を起爆する。


「くっ……」

「ふふ、一本取ったってことでいい?」

「脱出はできるが……ここまでされたら負けだろうな」



 私の目の前で氷漬けになったマルクは、その負けを認めた。

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