9-21 身辺整理
「起きたのか」
「うん。もう元気だよ」
ギルド長室を訪ねると、そこにはテキパキと事務をこなすマルクの姿があった。
「なら良かった。……何があったのかは知ってる。大変なときに俺一人だけ……」
「それは気にすることじゃないと思うよ。仕方なかったことだし。それに、もうなんともないからね。目も治ったし」
目が覚めた時から色覚の異常は治っていた。多分トラウマを克服したからだと思う。
治る前から魂の色だけは朧気に見えてたけど、今ははっきり見える。
「というかそれよりも聞きたいことがあるんだけど……その腕は……」
「ああ、これか?」
目の前のマルクには、失くなったはずの左腕があった。
正確には、義手らしきものが装着されていた。
「前にアベルが監査に来ただろ?その時五人が一回こっちにも来たんだ。……全部終わった後だったけどな。……それでその時に協力して貰って作ったんだ。特割価格でも魔導師団第七隊を働かせたからかなり金は掛かったけどな」
「第七隊……」
そういえばアベルの所属が王国魔導師団なのは知ってたけどどんな地位なのかは知らないな。
でもまあ、時期的にもまだ入隊直後だろうし平隊員くらいなんだろうな。
……なんかアベルが平隊員ってイメージと違うな。
「最近新設したばっかりの隊であの五人しか居ないらしいが、もう活躍してるそうだ。在学中から魔導師団に顔を出して下地は作ってたみたいだが、それでも異例の出世らしい」
「はえ~……」
イメージ通りだった。
なんというか……うん。凄い。
「……というかその義手、もしかして水晶使った?」
「ああ。強度も魔法陣を刻む素体としても理想的だったからな。十二分に活用させて貰った。そのおかげで色々機能を詰め込めた。これからは俺も探索に復帰する」
「わかった。……ふふ、また四人で進めるんだね」
「だな。ただ、これまでにした事が事だ。無茶はしない、いいな?」
「うん。それは自分の体でよく理解したから、
大丈夫。無茶はしないよ」
目的のために無茶をして自分の身を削ればどうなるかは痛いほど感じた。
自分の事は大事にしないとね。いや本当に。
「というかここにいるって事は鉱山の魔術は固定できたんだ?」
「そっちは割と早く終わったんだがな、亜人関連の方が時間が掛かった。現地住民と折り合いをつけるのに手間取った」
「あー……」
百年単位で姿を表してなかったとはいえもともと差別の対象だった種族だ。
それがいきなり自分達が切り開いて住む予定の森の中から出てきたなんてどう対応していいかわからないだろう。
「結局どうなったの?」
「俺達がお世話になったザイルガンドさんのところの集落に加え、他の集落に隠れ住んでた亜人達が住める土地を用意して、そこにある程度の自治権を持たせた。一つの村と変わらない扱いになるな。周囲の村や街の統率者とは友好的な関係を結べたし問題を起こさなければ問題なく生活できるはずだ」
「おお……よくそこまでできたね」
「ギルドの運営と平行してだったから大分苦労したけどな」
その仕事量を苦労したで済ませられるんだから凄い。
というかカイさんギルド長辞めてたからギルド長の仕事マルクに行ったのか……よく回せたね?
「……あれ?そういえばカイさんは……」
「……ああ、そうか。レイは聞いてないのか」
「え、何?何があったの?」
思い返せばここ最近カイさんと会った記憶がない。修道院に来てたって話が最後に聞いたカイさんの行方だと思う。
「……多分まだ聞かない方がいい」
「まだ、ね……」
「ああ」
まだ、ということはいつかは話してくれるんだろう。
なら今は深く追求する必要はないだろうし、理由があって話さないんだろうから無理に聞く必要はないだろう。
「それで、これからどうするんだ?何かしたいこととか予定はあるのか?」
「んー、一旦身辺整理からしようかなって。記憶がなかった間もいろいろやってただろうし、荷物の確認と整理、あとは散らかしたものの後片付けとかかな」
「わかった。俺も手伝う」
「ありがとう。……けど大丈夫なの?めっちゃ忙しそうだけど……」
「この程度ならすぐ終わる。後回しにしても余裕をもって終わる位にはな」
「ああ、そう……」
なんか、本当に凄いな。この短期間に何回もギルド長が交代してぐちゃぐちゃの状況でそれが言えるのはもうなんか、うん、凄いという言葉しか出てこない。
「何からするんだ?」
「じゃあ、とりあえず書斎から行こうかな」
「書斎?」
「なんか勉強してたみたいだよ、私」
「レイらしいな」
「そう?」
知識を身に付けようとした経緯を知ってる、感情として共有している私からすれば共感できる行動だけど、マルクから見たらそう映るのか。
……まあ、考えてみればやってること私とあんまり変わらないな。動機が違うだけかな。
二人目の私の足跡を辿るように、マルクと二人で歩いていく。