9-19 深淵連盟
「二人で前に出る!弓持ちと【不死鳥】は援護を!」
盾持ちの前衛二人が前に出て魔物を抑えるのに合わせて、私と弓持ちの冒険者三人が援護をする。
「……《緋炎剣》」
「うおっ!?」
「熱っ!?」
無数の熱線が二足の恐竜を細切れにする。
しかし、危うく前に出た二人を巻き込みそうになってしまった。
「おい!俺まで殺す気か!?」
「す、すみません……」
「頼むぜ、ホント……」
このパーティー、依頼によって組まれた深淵連盟には明らかな欠点がいくつかある。
一つ目──
「痛ってぇ!?すまん毒草に刺された!アーノルド、治療を頼む!」
「わかりました。見せてください」
治癒術師が一人しかいないから治療の負担がアーノルドさん一人にのしかかる。
厳密には一人じゃないけど──
「すみません!私には治せなくって……」
「いいえ。大丈夫ですよ。その代わり他の負傷者の手当はお願いします」
「はい……」
依頼の過程で教会に治癒術師を貸し出して貰えるよう掛け合ってみたらしいけど、それでも『長老』が建物の崩壊に巻き込まれて教会内の情勢がぐちゃぐちゃになってる今、貸し出してくれたのは見習い一人だけ。
そして二つ目に──
「弓持ち!もっとコース狙って撃ってくれ!俺まで撃つつもりか!?」
「あんたの抑える位置が悪いんでしょ!?というか【不死鳥】の方がよっぽど危なかったじゃない!」
「すみません……」
「チッ……結局子供は子供か。足引っ張る前に後ろに引っ込んでろ」
みんなの足並みが揃ってないのだ。
前に出た盾持ちはいかに安全に押さえ込めるかを優先し、援護に入った弓持ちはいかに急所を撃ち抜くかという観点で話をしてる。
「次はちゃんとしてくれよ」
「こっちのセリフよ」
そして厄介なのが、ここにいる冒険者はみんなよくも悪くも最前線で戦ってきて、それで大きな怪我をすることもなく生き残り続けてきた大ベテランだ。
それだけに、各々自分のやり方に自身を持ってるし、その立ち回りが染み付いてる。より安全で、より早く、より効率的に魔物を倒す方法を何年もかけてそれぞれ見つけているのだ。
そしてそれが何人、何パーティーも集まると統率が取れなくなって行き当たりばった、出たとこ勝負な動きになる。
その結果負傷が増え、治癒術師の負担が増え、魔術薬の消費が加速し、前に進めなくなる。
それどころか──
「おい、【魔剣】のガキはどこに行きやがった」
「俺はここだ。ちっと警戒が甘いんじゃねぇのか?」
「どこいってやがった!こんな場所で単独行動なんて頭おかしいんじゃ──」
「お前こそ、この深淵連盟の心臓の荷物持ちの守りをおろそかにするとかアホなんじゃねぇの?」
「はぁ!?荷物持ち連中は……」
「っ……大丈夫か?」
「ああ……」
こんな大所帯で探索なんて始めての人の方が多いし、これだけの大人数になってくると休憩サイクル、各々のコンディションの管理、物資残量の把握、どこまで進んだかの進捗把握などやることが増えて絶対に見落としが出てくる。
更に言うなら、ここまでの大所帯だと魔物を呼び寄せる格好の標的になってしまう。
そうなると必然的にある程度は自己申告、そして自分の身は自分て守るスタンスになっていく。
そうして自己防衛能力の低い荷物持ちや休憩中の人、後衛職が奇襲を防ぎきれず治療の手間が増え進むペースが落ちる。
そして、一番の問題が私が魔術の制御を上手くできてないことだ。
「はぁ……」
私が精霊──厳密には、精霊と人間のハーフということを知らされてから上手く魔術を扱えていない。
今まで勝手に使われていた精霊としての特性を自覚したからか、魔力の流れがおかしい。
今まで以上に魔力が勝手に増えて、想定以上に出力されるから制御が荒くなり必要以上に火力を出してしまうことななる。元から雑だった制御がより雑になってしまっている。
普段ならそこまで問題はなかった。少し時間をかけて丁寧に撃ち、多少制御がブレてもそもそも私が攻撃するときはみんな対象から距離を取る。
けど、この密集度合いだとそんな気遣いは求めてられない。そのブレが、撃つまでに掛かる時間が、このツギハギパーティーだと致命的になってしまう。
前衛が押さえ、後衛やもう一人の前衛が支援に入るという古来からの立ち回りを実践するこのパーティーだと、より重大なタイムロスになる。
そしてその焦りがより心のヒビを広げ、身につけた技術を失っていく。
このパーティーに限界が来るのも、時間の問題だろう。