表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
382/398

9-13 覚悟と対価

「はぁ……やっと終わった……」

「すみません、お二人も不参加にできればよかったんですが……」

「いや、それは流石に難しかっただろうしあいつを巻き込まないようにできただけありがたいです。ありがとうございました。……それで、いつまで聞いてるつもりだ?」

「っ!?」

「だいぶ前からバレてんぞ。おとなしく出てこい」

「はい……」


 ……盗み聞きしてたのはバレてたらしい。


「レイチェルちゃん!?」

「あらら……」

「……ごめん。さっきの話、聞いてた」

「体調に変化はありませんか?何か思い出したとか」

「それは大丈夫です。……記憶喪失のリーダーって、明らかに私のことだよね?」

「……アーノルドさん」

「……ここまで聞かれたら話すしかないんでしょうね。おすすめはできませんが」

「ま、正直さっきの会議聞かれてたなら今さら黙っても焼け石に水だよなぁ。んで、お前はどうしたい?昔のこと、聞きたいか?」

「……教えてほしい。私が誰で、二人にとってどんな人だったのか」

「……だとよ」


 三人とも渋い顔をする。

 わかってる。私だってわがままを言ってることくらい理解してる。


 けど、それでも気になる。何もかも知らないお荷物には、なりたくない。


「……相当にショッキングな記憶のはずです。それを受け止める土台が完成しているか、そもそも思い出すべきなのかは都度審議していくつもりでした。……だから、一つだけ質問をします。考えるのではなく、直感で答えてください」

「……はい」

「──覚悟があるんですね?」

「──はい」


 受け止めて見せる。どんなに凄惨な記憶でも、酷い内容でも、絶対に受け止める。

 こんな状況に甘えていたくないんだ。


「わかりました。ではヒナさん、ベインさん、一週間後に話してください」

「え?」

「ん?」

「アーノルドさん?」


 このまま教えてくれる流れじゃないの……?


「レイチェルさんの状況に関わらず、今思い出すとまずいんです。下手すると、さっきの作戦にあなたが組み込まれかねないんです」

「あー……そうかそうなるか……」

「……私が戦えないから不参加にしたい、って話だったよね」

「結果的には俺とヒナは参加することになったがな。まあ、それは置いといて……確かにそうだ。今記憶を取り戻しちまうと病み上がりのお前を連れていかなきゃ行けなくなる」

「単純に体調が悪いから不参加にはできないの?」

「そうも行かないんだよなぁ、これが」


 ふと思った疑問を投げ掛けてみるが、返答は芳しくなかった。


「この依頼ね、貴族から来てるんだよ」

「貴族?」

「迷宮の攻略を足踏みさせてた原因が解消されて一気に進んでるこの時期に、権力にもの言わせてあるかも分からない願望機を自分の物にしようとしてるのさ」

「正確には悪用を防ぎ、今後の技術の発展の為に学会に召し上げるという名目ですけどね」

「どっちでも変わらないですよ。これまで見つけたもん勝ちのロマンの塊に権力って唾つけてるんですから」


 願望機……確か前に本で見た気がする。

 御伽話の中の、なんでも願いが叶う……ってものだったはず。

 あんまり興味なかったからよく読んでなかったけど……実在するの?

 いや、分からなかったからこそこれまで放置されてたんだろうな。


 それでそれが手に入りそうになったから予防線を張る意味でも依頼という形で取り上げようと……趣味が悪いな。


「でも、じゃあなんでそんな依頼受けたの?」

「実在するか怪しい夢と確約された金を天秤にかけて、金を選んだんだよ。今の最上位の冒険者は」

「……そっか」


 夢とロマンより現実と利益を取った。それだけの話なんだろう。


「てなわけで俺ら以外が引き受けて、なのに一番活躍してる期待のルーキーで、封印を解除する技術を持った俺達が不参加は風当たり強い上に、報酬が欲しい上位層からしたら美味しくない。そういうわけで散々参加しろって喚かれた訳だ」

「うわぁ……」


 なんというか、大人げないな……良い年した大人が子供に頼りきりとか恥ずかしくないのか?


「なので、今はやめた方がいいと思いますよ」

「っ……わ、かりました」


 正直、一秒たりとも二人の負担にはなりたくない。

 けど、それ以上に思い出すことが迷惑になるなら、それは避けるべきだという気持ちもある。


 その葛藤が、焦りが、気持ち悪い。


「っ……」

「ほら、もう帰ろ?」

「……うん」

「それじゃあ私達は帰ります」

「はい。もう夜も遅いのでお体には気をつけて」

「ありがとうございます。おやすみなさ~い」

「はい。おやすみなさい」


 ヒナに手を引かれ、部屋に戻る。



 結局、このもやもやは拭えないままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ