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9-12 真夜中に

 それからリハビリと称した、緩やかで穏やかな日々は二週間ほど続いた。


 ただぼーっと本を読んでは、たまにその知識を試してみたり、ご飯を食べに街に出たり、不良に絡まれたり、いろいろあった。

 そんな単調で優しい二週間が楽しかったのか、心地よかったのか、焦りを抱えて過ごしたのかは、私にもわからない。


 ただ、そんな日々の中でも一つ印象に残ったことがある。


 変な夢を見るようになったことだ。

 あの太い枝が切り落とされる音が聞こえる、怖い夢じゃない。あれはヒナと一緒に寝るようになってから見なくなった。

 ただ、それと同時にまた違う意味合いで変な夢を見るようになった。まるで誰かの人生を追体験するような、リアルで陰鬱で、まったく時代に生きているような、そんな夢だ。


 けど、そんな不思議な夢も目覚めてしまえば泡のように消えてしまい、どんな夢を見たのかはっきりと覚えてることは少なかった。

 だからメモを取るようにした。夢日記というとあんまりいいイメージはないけど、これをただの夢で終わらせるのはなんか違う気がした。


 肝心のメンタルはというと、かなり落ち着いてきてると自分でもわかる。

 目覚めたときにあった焦燥感や不快感はもうほとんど無い。

 普通に生活を送る分には問題ないだろう。


 そう、思っていた時期だった。


「──はぁっ!」


 夜、ベッドから飛び起きる。

 また、変な夢を見た。


 例の追体験の夢だろうけど……なんだろう、誰かに殺されるような景色だった気がする。

 私を殺してきた人の顔は分からない。ただ、黒い刃が夢の中の私を貫いて、それを放ってる人の姿が一瞬見えたくらいだ。


「……メモだけしとこ」


 今見た夢をできるだけ細かく書き記していく。


「よし……あれ?そういえばヒナは?」


 この二週間は悪夢対策でヒナと同衾するようにしていた。

 けど、今はそのヒナの姿がない。


「……どうしよ」


 自分が死ぬ夢を見た直後だ。一人でもう一回寝る気にはなれなかった。


「……探すか」


 寝間着のままだけど……まあいいか。どうせすぐ戻ってくるし、こんな時間に出歩いてる人なんて居ないだろうしね。


 部屋の扉を開け、廊下を歩いていく。


「《発光(ライト)》」


 短く唱え、光属性の魔術を発動する。

 まだ制御は荒いけど、これくらいなら使えるようになった。


 そんな点滅する心もとない灯りを便りに、真夜中の廊下を歩いていく。


「──ん?」


 しばらく歩いたところで話し声が聞こえてきた。

 二、三人じゃない。もっと多くの、会議のような話し声だ。


 ただ、それも怒号に近いものだった。


「おい!今まで最新層を攻略してきたお前らんとこのパーティーが不参加ってどういうことだ!」

「封印解除の技術を独占するつもり!?」

「未曾有の災害より利益を優先するつもりか!」


 部屋の中からは、ただ二人に対する数多くの訴えが聞こえてくる。


「それは……」

「ヒナ、それは俺から。……申し訳ないが、今うちのパーティーのリーダーが活動不能状態に陥っている。そして迷宮の封印と呼ばれている台座のからくりの解除方法を俺達は知らない。だからこの大規模合同探索に同伴したところで力にはなれない、そう判断した」

「ふざけんな!知らないわけ無いだろ!」

「何十年も未解明だった技術を解明したのにそれを個人の問題で紛失!?無責任すぎる!」

「そもそもリーダーも死んでる訳じゃないんだろ!?なら方法だけでも聞き出してこいよ!」


 私のよく知る人物に、罵倒が降り注ぐ。


 ヒナ……ベイン……?

 迷宮の封印って……いや、それよりなんで二人があんなところに……


「そもそも国や貴族からの正式な依頼なんだぞ!そんな理由で不参加が認められる訳ないだろ!」

「それでも、だ。リーダーは訳あって記憶喪失、それも治療の目処が立たない状況だ。……そんなやつを無理矢理前線に立たせる?覚えてないことを無理矢理聞き出す?……いい加減にしろよ、お前ら」


 直接見なくても、心の底から怒ってるのがよくわかる声だった。


 というか待て、記憶喪失?それって──


「その件は私からも証言させていただきます。名前は伏せますが、その記憶喪失は私も診て治療に携わっています。まだもとの記憶を取り戻す土台が整っていません。というか取り戻すべきではない記憶です」

「はぁ!?アーノルド!お前も技術を秘匿するのか!?」

「ふざけないでください。十五の少女が自ら記憶を閉ざし心を壊すほどの恐怖が、あなたに理解できますか?」


 アーノルドさんもいる……

 というか話題に上がってるのって……


「んなもん自己責任だろ!」

「そうですね、彼女が迷宮に関わったのは自己責任かもしれません。しかし責任の所在の話をするならあなた方は一般人同然の彼女を危険な場所に連れ込んで守りきると責任を持てるんですね?何かあってもそれに対して責任を持つんですね?」

「っ……」

「俺達が同伴したところで役に立てないのもあるし、アーノルドさんが危惧した問題もある。だから俺達は今回の作戦は不参加にする」

「それは違うだろ!そもそも今回の依頼は──」


 頭が痛い。何かが引っ掛かっているような、もやもやとした感覚が頭の奥から離れない。


 そんな私をよそに怒号が飛びかう。



 そんな、半ば罵りあいに近い会話は、一時間ほど続いた。

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