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2-25 特異体質

「え〜っと、どうしたの…?」


 風呂上がり早々の惨事について説明を求める。


 まず思いっきりヒナとマルクが揉めてる上に机の上が黒のインクで黒に染まりきっている。

 温厚なマルクが一体何をどう教えたらこんなことになるんだ?


「ヒナが教えたら通りにやらないんだ。それどころかペンを折ったんだ」

「ちがう!ちゃんと言われたとおりにやった!でもちゃんとならなかった!わざとじゃない!」

「うん、まあとりあえず落ち着いて。とりあえずこのインク、片付けようか」

「……そうだな」

「……うん」


 タンスから古くなったタオルを取り出しインクを拭き取る。

 もとから古くなって捨てるつもりだったので捨てる前でちょうどよかった。


 一通り拭けたので風呂場で絞って軽く洗い、カゴに入れる。


「一人づつ聞くから先にヒナお風呂入ってきて」

「……わかった」


 渋々といった顔で風呂場に向かう。


 とりあえずさっきみたいに揉めたら話が進まないので一人づつ聞いて話をすり合わせることにした。


 ヒナの姿が見えなくなってから話を切り出す。


「マルク、何があったの、教えて?」

「俺はレイチェルと同じように教えただけだ。ただ一回で上手くいくとは思ってないから少しずつ教えようとしたんだ」

「うん、それで?」

「まず魔力をインクに染み込ませるところから教えようと思ったんだ。基本だから」

「うん」

「だけどヒナが魔力を流した時、ペンが割れた」

「ん?えっと、どういうこと?」

「そのままだ。ヒナが魔力を流した瞬間ペンが割れてあの状況だ」


 一体何があったんだ?魔力を流しただけでペンが割れた?

 分からないな、ヒナが上がったら聞いてみるか。


「とりあえず話を整理すると、マルクが少しずつ教えようとしたら何故かヒナがペンを壊してそれに怒った」

「ああ、さらに言うなら、折ったペンは一本じゃない。3本だ」

「え、そんな折ったの?」

「ああ」


 まあそこまでそれたら流石に怒るか……


「……上がったよ」

「じゃあ交代で」

「わかった」


 今度は入れ替わりでマルクを風呂に入れる。

 同じようにマルクの姿が見えなくなってから話しかける。


「じゃあ教えて、何があったの?」

「私は悪くない!」

「わかってるから、教えて。ね?」

「……うん、えっとね、マルクに言われた通り魔力を流したの。したらなんか急にペンが壊れちゃって……」


 こっちの言い分も同じか。しかし魔力流しただけでペンが壊れる?

 多少物理的に干渉できるといっても術式を通さず形を与えてない魔力でそこまでできるか?


「えっと、じゃあ、試しに同じように魔力を流してみて。空中にでいいから」

「…わかった」


 指示通り杖先から魔力が流れ出す。

 しかし、その量が異常の一言に尽きる。

 明らかにやりすぎだ。


「う〜ん、もうちょっと少なくできる?」

「これより少なくできない」

「ほ、ほんとに?」

「うん」

「……分かった。もういいよ」


 言われた通り魔力の流出を止める。


 これが最小値らしい。

 どうやら原因は単純、魔力の流し過ぎによる過剰付与によって物体が耐えられなくなったことっぽい。


 しかしそんな事あるのか?しかも本人は絞りに絞ってこれだ。

 たしかにヒナのステータスの魔力数値は飛び抜けて高いがここまでの出力が出るのか?


 ……嘘だぁ。

 私だってやろうと思えばできるかもしれないがやろうと思ってようやくだ。

 それを力を抜けるだけ抜いてやるとか流石に現実離れしてないか?


 これがこの五年の経験で導き出された答えだった。


「上がったぞ」

「ああ、マルク」

「どうだ?何かわかったか?」

「ああ実はね……」



「えぇ…?」


 マルクに一通り事情を話した。やっぱり信じられない様子だった。


「一度に出せる出力が大きい代わりに細かいことが苦手なのかも……これだと空間魔術も難しいかも……」

「え!?」

「……一回試してみる?」

「……うん」

「じゃあ真似してね。《空間把握(グラスプ)》」


 私の魔力が部屋を包む。等間隔で配置された魔力が些細な情報まで持ってくる。


 この構築を真似ろとは言ったが……正直あの出力でやると衝撃波を放つ魔術になりそうだ。


「ちょっと試してみて。ゆっくり、ゆっくりね?」

「わ、わかった……《空間把握(グラスプ)》」

「《魔術壁(シールド)》」


 予想通り周囲に衝撃波を撒き散らしたのでドーム状の壁を張って押し止める。

 室内でそんなことやったら部屋がさっきの机の上どころの惨状ではすまない。


「止めて」

「……うん」


 ここまでの実験から得た情報をまとめ、率直に事実のみを伝える。


「多分ヒナは大きな魔術を作るのは得意だけどこういった細かいことは苦手なんだと思う。だから、多分、私たちの魔術を使うのは、難しい」

「っ!」


 予測てきてたかのような、それとも完全な予想外だったような、どちらとも解釈できる諦めに似た表情を浮かべる。


 おそらく、心のどこかでは分かってたんだな。


「……そっか。私も、使ってみたかったな……。私ね、昔からこうなの。この力がいろんな物の邪魔になって物は壊すし怪我だってさせちゃったの。

 だから()()に来たの。この力をなんとかできるって聞いて。だから……こんどは大丈夫だって、思ったの。でも駄目だった。杖を使っても、上手くいかなかった。

 今度はみんなと、おんなじように出きるって、思ったのに……」


 ヒナの顔を涙が濡らす。喉から嗚咽が漏れ出す。

 ……子供ながらに辛い経験をしたんだろう。


 みんなと一緒じゃない、みんなにできることが自分にはできない、そういう経験が重荷になってるのかもしれない。


 私にできることは少ない。けど、してあげたいこと──してほしいことは分かる。


「ごめんヒナ。()()は私には共感もできないし追体験できるわけでもない。けど話を聞くぐらいはできるんだよ?友達として慰めるくらいはできるつもりだよ?

 だから落ち着いて話して。たぶんそっちの方が楽になる」

「……うん…!」



 こうしてヒナの精神的外傷(トラウマ)を慰め、夜は更けていった。

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