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9-6 悪夢の正体

 ──どこか、薄暗い場所にいた。

 体は動かない。まわりがどうなってるかもよく見えない。


 ただ、太い枝が切り落とされたような音が何回も、何回も聞こえてくる。


 それが、私には──


「──っはぁ……!はぁ……」


 薄い胸が上下する。肌着が汗で濡れて肌に張り付く。粘っこい胃液が込み上げてくる。


「はぁ──はぁ──」


 寒い。気持ち悪い。怖い。


 何だ……?これは、一体何が……


「ふぅ……ふぅ──」


 空気を吸い込み、それを吐き出す。

 それだけでもいくらかこの最悪な気分が希釈された気がした。


「……どうしよっかなぁ」


 正直、あれを見た後だと寝れる気がしない。


 かといって外に出る気にもなれないし、この気分を相談する相手も──


「……どうしよ」


 ヒナの声がフラッシュバックする。

 何かかあったら呼んでね、そう言っていた。


 ……行ってみようかな。


「……でも、とりあえずこれはなんとかしないとかな……」


 今着てる服も下着も汗でぐちゃぐちゃだ。

 流石にこの格好で会いに行くのは気が引ける。


「……着替えるかぁ」


 ひとまずクローゼットを開け、下着とシャツを何着か見繕う。


「うわ、これどうやって着るの……?ホックどうやって……」


 ……うん。多分、というか確実にちゃんと着れてないけどまあいいか……

 というか手先の感覚が鈍いのと、服に関する記憶も無いせいで着替えがめんどくさい……


「……よし」


 体はタオルで拭いた。濡れた服は着替えた。

 多分大丈夫なはず。


 部屋から出て、隣の部屋の扉を三回ノックする。


「はいは~い」


 私とは対照的な軽快な声が聞こえ、寝間着に着替えたヒナが出てくる。


「あれ、レイチェルちゃん。どうしたの?」

「えっと、その……」


 思い付きで頼ってみたはいいけど、なんて説明したらいいのかよく分からない。


「……まあ、とりあえず入って」

「……うん」


 促されるままヒナの部屋に入る。


 整理されてるようで隅に寄せられただけの荷物、並べられた小さな人形、飽きっぱなしのクローゼット。


 見たことがあるような、無いような。そんな気がした。


「散らかっててごめんね。ベッドでよかったら座って」

「ありがとう……」


 柔らかいベッドにバランスを崩さないよう気にしながら腰を下ろす。


「それで、どうしたの?唇が青いよ?」

「え、あ……」


 水の入ったコップを手渡されながら、横に座ったヒナから目を逸らす。


 口に水を含み、時間をかけて飲み込んでから改めて口を開く。


「……なんかね、変な……うんん、怖い夢を見たの」

「怖い夢、ね……」

「うん。……バチン、バチン、って何回も聞こえてくるの。なんか、それが……」

「ああ……」


 心当たりがあるのか、ヒナが小さく吐息を漏らす。


「……それはね、多分思い出さない方がいい。忘れよう」

「でも……」

「思い出さない方が、いい」


 語気を強めて言うヒナに気圧される。


「多分、それがレイチェルちゃんが記憶を失った原因だから」

「っ……」

「無理に思い出すのも、考えすぎるのも、多分良くない。だから、ほら。それは一旦忘れよ?」

「わかっ、た」


 悲しそうな、泣きそうな顔をするヒナの提案を、私は断れなかった。


「ほら、これでその話はおしまい。そうだ、怖い夢を見たってことは寝てたんだよね。じゃあまだ朝までは長いしもう一回寝よっか」

「でも……」

「大丈夫。私が側にいてあげる。ほら、横になって」


 半ば押し倒されるように、ヒナのベッドに横になる。


「ちょ……」

「大丈夫」


 そのまま毛布を被り、抱き寄せられる。


「あ……」


 体から力が抜けていく。

 肩から力が抜け、意識が遠退いていく。


「おやすみ」



 それが、最後に聞いた声だった。

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