2-24 勉強会2
「ただいま〜」
「あ、おかえり」
「おかえり」
出かけてたヒナが戻ってきた。
時刻は午後六時半、課外の見学に行ってきたんだろう。
「レイチェルちゃん大丈夫?」
「うん、もう結構平気」
「良かった〜、てかこれ何してたの?」
「ああこれ?」
机の上に散乱してる大量の紙が気になったらしい。
「刻印魔術を教えてたんだ」
私の代わりにマルクが答えた。
あれから三時間、何度も描き込んでは発動して試すのを繰り返して練習していた。
そのせいか少し部屋が寒くなったので窓を開けてある。
「え〜私も教えてほしかった」
「別に教えるのは構わないが夕食が先じゃないか?」
「そうだね、そろそろ移動したほうがいいかも。お昼食べられなかったからお腹すいたし。少し早く行こう?」
「う〜ん、そうだね、私もお腹へったし行こう」
全会一致で夕食に行くことが決まった。
移動しようと思い椅子から立ち上がったタイミングで気づく。
そういえばまだ寝間着のままだ。
「じゃあ、ちょっと着替えるから待ってて」
「分かった。俺は外で待ってるから」
「わかった。ありがとう」
気を利かせてマルクが席を外してくれた。
正直見られたところで気にはしないのだがそういう問題でもないだろう。
あまり待たせるのも悪いし少し急ごう。
寝間着を脱いで箪笥にしまう。しまうついでに制服を取り出し着替える。
新しい靴下を取り出し身につける。
あとは手ぐしで少し髪を整えて完了だ。
……櫛、買ってくれば良かったな。
てか頑張ったら作れそうだな。けどまあ、今じゃないか。
「ごめん、準備終わった」
「わかった。じゃあ行こうか」
「レイチェルさん、体調はどうですか?」
「結構治りました。もう大丈夫です」
「良かったです。多分初めて魔力欠乏症になったんじゃないですか?」
「……魔力欠乏症、ってなんですか?」
「魔力欠乏症というのは魔術の使いすぎで体からほとんど魔力が出きった状態の時体調が悪くなることです。
魔力も体の機能の一部なので使いすぎると影響が出ます。まあ慣れでなんとかできるんですけど慣れるまでは結構大変ですし、慣れたら慣れたで魔力の減りに気づけないこともあります。
だから魔術師はこの問題とずっと付き合うことになります」
「そうなんですね、気をつけます」
そんな症状が出ることもあるのか。
というか魔力の減りに気付けない、か。
言われてみれば私はステータスが使えるから魔力を数値で見れるが普通の魔術師は感覚で把握するしかないのだろうか。
強くなるために症状に慣れれば足元を掬われやすくなるとは難しい話だ。
「レイチェルさんは大丈夫そうなのでご飯、食べましょうか」
ふう、美味しかった。
空腹は最高のスパイスと言うのは間違ってなかったな。
特段普段と変わらないメニューだったが数段美味しく感じた。
まあそのせいで食べすぎたような気もするが。
「そろそろ戻ろう」
「うん」
「戻ったら魔術教えて!」
「いいよ、本も借りてきてるし一緒に読もう」
「やった!」
「でも明日もあるから早めに寝るよ」
「分かってる!」
ほんとに分かってるんだろうか……
てかなんか前も似たような会話したな。
デジャヴを感じる。今は魔力少ないから転ぶのはやめてくれよ?
心配しなくても大丈夫だったらしい。
とくに問題なく部屋にたどり着いた。
マルクが扉を開けて中に入る。
すかさず走ってヒナが中に入っていった。
「ねぇ早く!教えて!」
「はいはい。あ、でも先にお風呂入りたい。マルク、先に入っても良い?」
「別にいいぞ」
「早く上がってきてね!」
「先に俺が教えてやるから落ち着け」
……多分マルクがなんとかしてくれるだろ。さっさと入ろ。
寝間着を持って洗面所に向かう。
脱いだ制服は明日も着るので皺にならないよう畳んでおく。
なんか騒がしいが気にしない。
風呂場に入り蛇口を捻る。
やっぱりこういう時少ない魔力でもお湯にできるのは助かる。
はぁ〜疲れた体にお湯が染みる。
なんだかんだ汗もかいたし体を綺麗にできて気持ちいい。
ほんとは汗の匂いとか気にするべきなんだろうけどまだ前世の感覚が抜けてないな。
ある程度お湯で流したところで石鹸を泡立てて体を洗う。
前世と違ってあの名称不明の泡立てる網はないので小さい濡らしたタオルに擦って泡立てる。
そのタオルを使って脇、肘、ひざ裏、汚れが溜まりやすいところを重点的に洗う。
洗い終わったら流して髪を洗う。
こういう時簡単にお湯が使えるようになったのはほんとありがたい。村の頃と比べてかなり楽な生活になった。
なんだかんだ水よりお湯のほうが汚れは落としやすいし気持ちも良い。
髪だってこっちに来てからきれいになった気がする。
これだけ高水準な寮なら学費とか凄そうだが……まあ今更気にしても私にはどうしようもないか。
……恩返しできるように強くならないとな。
さて、もういいか。上がろう。
近くに置いておいたタオルで体を拭く。とくに髪を重点的に。
ある程度拭けたし着替えようかな。
下着と寝巻きを掴み身につける。丁寧に畳んだので皺にはなってない。
「温風」
手から温風を出し長い髪を乾かす。早めにこれを開発できてほんとよかった。
自分で温度や風量、当てる場所を簡単に変えられるから前世より使いやすいかもしれない。魔力を使うのが少しネックだが。
ふぅさっぱりした。やっぱり風呂上がりはなんか気持ちがいい。
前世でも今世でもそう思う。
さて、マルクと交代しようかな。
「上がったからマルク次……」
「だから違うって!そうじゃない!」
「はぁ!?だからこうしかならないんだって!」
なんか知らないけどめっちゃ揉めてる……。