8-41 焔聖閃剣
「っ──!」
闇が溢れだす。ありったけの魔力を注ぎ込んだ焔の塊が、光を失っていく。
「なっ……!?」
焔の中から人影が現れる。
肉もない。骨もない。翅も、髪も、目も爪もない。
何もかも灰になっていた。なっていたのだ。
「再生してる……!」
体を構成する物質が灰以下の塵まで燃やされたのに、一瞬で骨格を、臓器を、筋肉を、皮膚を、回復しきった。
残っていたものといえば繋がった糸くらい……でも、あれは流し込むものじゃなくて吸い取るもの……あ──
「魔力が補給されてる……!迷宮から……!」
糸が下に向かって伸び続けてるのは気がかりだった。だけど、何かを吸い取るものという先入観があったせいか、気付けなかった。
あんな力業が出来たのは本人の魔力量が多いからでも、精霊としての力で周囲から魔力を補給していたわけでもなかった。
星の心臓、願望機から直接魔力が補給されていたんだ。
だとしたらまずい。本当に願望機から補給があるならジリ貧だ。そのうち魔力切れで押し負ける。
それどころか──
「あっ、ぶない……!」
闇で出来た刃が四方八方に飛び出す。
それは次第に動きだし、瓦礫の一つ、空気中の砂埃まで対象にして切り刻んでいく。
駄目だ……防御も出来ない威力だし、このままだと魔力切れどころか普通に殺される……!
「おい!どうするんだ!?下の四人に避難誘導出すように連絡はしたが、このまま戦うのか、逃げるのか早めに決めなきゃまずいぞ!」
そうだ。その選択肢は早めに決めなきゃいけない。
今はまだ刃の数が少ないおかげで各々辛うじて回避できてるけど、これ以上増えれば回避も出来なくなる。
ここは──
「教皇はここで殺す!言っただろ、考えがある!」
「っ……分かった!目標は変えない!教皇はここで殺す!」
「了解!」
「教皇殺しか……バレたらどうなるか考えたくもないな」
「なんとかしてくれるんでしょ?」
「まあ、そうなるんだろうがな!」
世界でもっとも信仰されてる宗教の教皇が殺されても、揉み消せる算段があるらしい。
怖いなあ……貴族だの政治だのは関わらなくて正解だったな、これ。
「接近……いや、接触したい!なんとかして道を開けてくれ!」
「無茶を言ってくれる……!」
「やってみる!《灼竜砲・不死鳥》!」
熱が極限まで高まり、白く変色した焔が闇の刃に触れる。
方や聖遺物を使っての焔。方や願望機から魔力を供給され、精霊の体を使って出力される殺意の塊。
その二つが接触し、白と黒が入り交じる。
「っ……これじゃダメみたい!」
初動は白の方が優勢だったけど、次第に切り刻まれ光を失っていった。
その間も攻撃の手は緩まず、回避を強要されていた。
「なら私が──」
「いや、あれ相手に波状攻撃は悪手だ!高火力の一撃を叩き込む必要があるだろ!」
「でも、さっきの太陽以上の火力は──」
「ヒナ!《緋炎剣》を不死鳥で撃てるか!?」
「できる!……けど、火力が強すぎてまだ制御が上手くいってない!」
「上等だ!合わせる!最大火力でやれ!」
「了解!」
「私も手伝う!」
「僕ももう一回手伝う!」
詠唱が始まる。紅い魔力が流れ込み、顔色が悪くなっていく。
けど詠唱を紡ぐ口は止めない。誰一人として、諦めてない。
「『火種は燻り燃え上がる』。『薪を喰らい剣と成る』『今輝くは緋色の剣』!」
不死鳥を中心に、魔力を取り込み巨大な剣が形成される。
「ぐ、うぅ……っ!アベル!」
「任せろ!誰がお前に剣の使い方を教えたと思ってる!」
赤から青に、そこから更に白に変色した超高温の炎の中にアベルは右腕を突っ込む。
『炎剣の担い手はここに』。『支配の炎盃を以て』、『誓の血酒を飲み下す』!──融合発動、《聖焔閃剣》!!」
膨大な魔力が流れ込み、解けつつあった炎剣が一振の剣に再構成される。
それを骨だけになった右手で掴み、振り払う。
「焼き、払えッ!」
眩い光が、暗闇を切り裂いた。