8-40 白夜
「『認識』『演算──終了』」
短く口を開いたかと思えば、同じように力場として魔力が放たれる。
形状も、属性も同じ単調な力押し。これが莫大なエネルギーを伴ってなければすぐに攻略してただろう。
「っ──」
耳鳴りがする。巨大な力場が空間ごと押し潰すかのように押し寄せてくる。大量の魔力で《空間把握》が弾かれる。
けどここは障害物の無い更地だ。《空間把握》を使えなくても十分に性能は発揮できる。
「つ、らぬけッ!」
それぞれ別方向から槍を飛ばす。
大質量の集中砲火だ。本来なら防ぐという選択肢は出ない攻撃だ。
しかしそれは、この化け物相手ではただの氷細工と同等のものでしかなかった。
「っ──!」
相も変わらずリソース頼りの全方位への魔力放出。
単調で、技術の欠片もない。
けど、時としてその暴力的な力は牙を剥く。
「やっぱり火力じゃ勝てないか……」
五本の槍が、全て氷片に変えられた。
でも、それは予想通りだ。
「なるほどな。使え!」
「ありがとう──《氷晶結界》」
愁人から追加で水を貰い、破壊された槍の欠片を使って結界を作り上げる。
もともと槍には破壊された場合それが別の術式になるように細工はしてた。
けど愁人のおかげで想定以上に火力が上がった。
これなら、一瞬で全身を氷漬けに出来る。
「ヒナ!」
「了解!」
このまま最大火力を叩き込む。
「いいんだよね!?」
「ああ!やってくれ!」
「わかった!──『宙を照らす灯り』『夜明けを告げる炎の天体』!」
「『羽を授け』『闇を照らす』。『冠戴く幻の玉座』!」
二人が同時に詠唱を始める。恐らく、今出せる最大火力だろう。
「使って!」
「うん!──《宙へ昇る陽光の星・不死鳥》!!」
「魔術付与《精霊王の翅》!!」
不死鳥が太陽に変生し、愁人からの魔術的なサポートを受け、私が用意した大量の酸素を食らい成長していく。
夜なのに、その一帯は昼よりも明るい白夜となった。
「いっ、けぇえええ!!」
あの時よりも何倍も大きくなった太陽が、ただ一人の精霊に向かって放たれる。
相変わらず体は氷漬けで、魔力の動きも反応がない。
けど、警戒は緩めない。化け物相手だ。何が起こるかは分からない。
「──当たった?」
しかし、そんな警戒心はのれんを押したようにすかされ、太陽は教皇を飲み込んだ。
「はぁ──はぁ──」
「ヒナ!飲める?」
「う、うん……うぇ、まずい……」
「はい、水」
「ありがと……はぁ……疲れた……」
「レイチェル、あれの中はどうなってる」
「燃え続けてるよ。抵抗もせず燃えてる」
「そうか……不気味だな」
「うん。……でも、これで倒せなかったら……」
「その時は考えがある。合わせてくれ」
「わかった──っ!?」
「なんだ!?」
突如、黒い幕が降りたように周囲が闇に包まれる。
「お前ら何してるんだ!」
「誰──って、アベル?しばらく見なかったけどこんなところに居たんだ……」
「シュウトが脱走したときからずっと探してたんだよ。見つけたなら連絡くらいくれ。……で、あれはなんだ?辛うじて隠蔽術式が間に合ったが……」
「あの幕アベルの仕業だったんだ」
「ああ。お前が気付かないってことは相当だな。……推察するに、教皇か?」
「……よくわかったね」
「よく、も何もここ大聖堂の頂上だぞ」
「え?」
「知らなかったのか……?」
大聖堂といえば大陸の西の方にある。そんなところまで移動してたのか……
「事情は僕が説明する。耐えてくれ」
「は?」
魔法陣が描かれ、アベルの魂に一本の糸が繋がる。
「つっ……!そういうことか……また随分と面倒な案件を……なら下のあいつらを……いや、避難誘導をさせた方がいいか」
「そういえば他の四人は?」
「俺を頂上まで飛ばすのを手伝って貰った。かなり高いからな、ここ」
周辺の地形はあまり意識して見てなかったけど言われてみればかなり高い。
落ちなくてよかった……
「それでお前らは──なんだ?」
「何、あれ……」
太陽から、黒い水のようなものが染み出していた。
それは次第に太陽を汚し、飲み込み、光を失わせていく。
「愁人、あれって……」
「ああ。やっぱりティターニアを操ってたのは迷宮の黒幕だったな……!」
以前愁人が黒幕の情報を口にしようとしたとき飛んできた闇属性の黒い光線。
あれと同じ反応がティターニアさんから出ていた。
「……来るぞ。まだ終わってない」
私達の技は、たった今目の前で塗り替えられた。