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8-37 教皇

「どこ……って、待って!」

「っ!」


 伸ばした手が弾かれる。そのまま突き飛ばされ、赤く跡が残り、麻痺した触覚が鈍い感覚を伝えてくる。


「え、ぁ──」

「っ、すまん!」


 あの光景がフラッシュバックする。力が抜けて、手先が震え出す。膝が笑って立てなくなる。


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ──


「はっ──はっ──はっ──」

「レイチェルちゃん!」


 ほんのりと甘い香りがする。麻痺した感覚でも分かる温かさが伝わってくる。どこか落ち着く鼓動が鼓膜を揺らす。


「はっ──はっ──はぁ……はぁ……」

「大丈夫?」

「う、うん……ごめん、ありがとう」

「すまない、僕が迂闊だった」

「……ティターニアさんが気になるんだよね」

「……ああ。すまないが、目的は変えられない。教皇が疑わしい以上、直接見て確かめられる可能性があるなら僕はそれを優先する」


 もともと修道院の調査に来たのは教皇の居場所を探るためだ。

 それが確かめられるなら、優先したい気持ちも分かる。


「いいよ。もともと私もそれに協力するつもりだったんだし」

「助かる」

「じゃあ、教皇を探しに──」

「その必要はなくなった」

「え?」

「ここに来た時から……いや、ポータルを開いた時から契約が反応してた。つまり、()()()()()()()()()()()()

「それ本当!?」

「ああ。教皇が怪しいって読みは当たってたみたいだ。行こう」

「うん。……っとと」

「大丈夫?」

「大丈夫だよ。行こう」


 まだ少し力が入らない。感覚が鈍くなったのも影響してるのかもしれないな。

 でも歩いたりする分には問題ない。今は教皇の正体について確かめるのが最優先だ。


「場所は分かるの?」

「ああ。任せてくれ」


 私が視る必要も無いみたいだ。精霊の契約って効力強いんだな……


「……誰も居ないね」

「いくら情報の流出を避けたいとはいえ護衛の一人も居ないのか?ぞんざいに扱われてるんだな」


 あれから少し移動したけど誰とも遭遇しなかった。

 教皇はクレイ教だと一番偉い立場のはず……ちょっと不自然な気もするけどな……

 罠の類いがあるわけでもないし……


「……待て」

「どうしたの?」

「もうすぐだ。何があっても対応できるよう身構えておいてくれ。……最悪の場合はヒナがレイチェルを連れて逃げてくれ」

「ちょっと──」

「わかった」

「ヒナ?」

「無茶しちゃダメだよ」

「でも……」


 ……いや、駄目だな。下手すればまた思い出して足を引っ張る。

 愁人に肩代わりさせてる都合上動けなくなるのが私一人じゃない以上、トラウマを思い出すことがそのまま行動不能に繋がる。


「……ごめん。任せる」

「ああ。そうしてくれ」


 考えすぎず、情報に触れず、無理のない範囲でサポートする。

 それが、今の私の仕事だ。


「よし、行くぞ」


 合図と同時に歩き出す。


「っ……!ティターニア!」


 一人の翅の生えた女性が、椅子に座っていた。

 目には光がなく、色の区別のつかない私から見ても不自然な形と色の魂をしている。

 その魂には何千、何万もの糸が繋がり、真下に向けて一本の糸が伸びていた。


「ティターニアっ!僕だ!分からないのか!?」

「……」


 いくら呼び掛けても返答はなく、ただこちらを見つめ返すだけだった。


「っ……なんだ?あの形は何かをきっかけに解除されるようにできてるはず……」

「どうしたの?」

「お前は視えるだろ。今ティターニアは他者の魂に自我を押し潰されてる。それであの不自然な膨らみ、他者の魂の重さで潰れないよう強い感情を込めて守ってるんだ。だからその感情を刺激できれば自我が戻るかも……」

「『認定』『命令、侵入者の排除と拘束』『機構(システム)教皇(オートマタ)の能力を持って命令の遂行を開始します』」


 排除と拘束……!?それに言い方からしてまだ上がいる……誰だ?クレイ教のトップは教皇じゃないのか?


 いや、それより──


「《氷の城壁(アイシクルキャッスル)》!」

「『──』」


 桁外れの密度の魔力が放たれる。

 属性を持たず、指向性も纏まってないただの力場としての作用しかないにも関わらず、聖遺物由来の壁をやすやすと破壊した。


「っ──」


 落ち着け。考えるな。今はただ攻撃を防ぐだけでいい。

 それ以外に思考を回すな。ただ魔力だけを──


「レイチェルちゃ──」

「私は大丈夫!それより愁人!心当たりあるんでしょ!?」

「っ……ああ!ティターニアっ!僕は果たしに来たぞ!君との契約(やくそく)を!『()()()()()()()』誓いを!だから、目を覚ましてくれ!」


 愁人の言葉が白く無機質な部屋に響く。


「『機構(システム)教皇(オートマタ)は主の命れ、ぃを──」


 声が乱れる。魂が揺れる。感情のつぼみが開く。


「──やっと、やっと来てくれたのね」

「ああ……!」



 永い時を経て、二人の精霊は再開を果たした。

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