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8-34 空間把握

「悪い!待たせた!」

「いや、大丈夫です。それより早く行きましょう」

「だな。ただ、各自準備はいいな?もう後戻りはできないぞ?」

「いつでも行けます!」

「大丈夫です」

「もともと僕に荷物なんてないからね」

「私も大丈夫ですよ」

「分かった。全速力で飛ばす。しっかり捕まっててくれ」


 人造の馬車が、街中を突き抜けていく。

 次第に街の外に出て、踏み固められただけの土に車輪の跡を残しながら真夜中の野原を駆けていく。


 ラタトスクに帰って来るのに時間をかけてしまった。すでにレイチェルと別れてから丸一日経ってる。

 頭の中に、もうあいつは殺さてたんじゃないかという考えがよぎる。


 ……いや、大丈夫だ。あんなにしぶとくて根性のあるやつがそう簡単に死ぬわけない。


 そう、不安をかき消すように馬車の背もたれに体重を預ける。


 ……眠たいな。精霊の体に睡眠は別に必要じゃないけど、今はなんとなく眠い。


「寝とけ。疲れてるだろ」

「……じゃあ、遠慮なく」


 意識を微睡みの底に沈め、休眠状態に入る。


 次に目を覚ましたとき、多分そこが僕のこの時代の旅の終わりだ。

 なんとなく、そんな予感があった。


 そこにティターニアがいるか、巻き込んでしまったあいつを無事に助け出せるかはわからない。


 ……僕にとっては、ティターニアとの約束を果たせるかどうかだけが重要なはずだったんだけどな。

 猫を被って、嘘をついて、ヒナを誘拐して、レイチェルを巻き込んで。


 良くも悪くも変わっちゃったのかね……


 でもまあ、そこで終わりだろうが上手く行かなかろうが、僕がやることは変わらない。

 いくら嫌いで苦手意識があるとはいえやったこととやりたいことの責任は取らなきゃいけない。


 やることをやる、それだけだ。

















「さァて!いっちょカマしてやるとするかァ!うちの後輩に何してくれてんだよ、ああ!?」


 修道院の壁に槍を一刺ししてから、威嚇するように声を張り上げ押し入っていく。


 ……槍の効果って確か衰弱だよな?……これ修道院崩壊しないか?


「っシャア!さっさと出てこいやクソ野郎が!」


 ……あのヤクザペアを放置する方がまずいな。


「仕方ない。ヒナ、行くぞ」

「最初からそのつもり!」


 ワンテンポ遅れて僕、ヒナ、アーノルドが入っていく。


 時間帯てきに礼拝が終わってそれぞれ自室に戻る頃合いだ。今なら一般信者に余計な被害を出すこともないだろう。


「《金剛体躯(ストレンジトランク)》。怪我をした場合はすぐに私のところに」

「了解。今だけは頼りにさせてもらうよ」


 アーノルドから身体強化を受け修道院中央、礼拝堂を目指してヒナと走り出す。


「いいかい、教えた通りにやるんだ。ヒナならきっと出来る」

「分かった。……けど、なんでシュウトがそんなこと知って──」

「ヒナ、もうすぐだ。気を引き締めて」

「……了解!」


 ……まだ、これは話さなくていい。ただでさえ混乱してるこの状況で新しい不安の種を蒔く必要は無い。


「ヒナ!やってくれ!」

「うん!」

















 不死鳥を展開し、とっておきの技を発動する。


 何度も見てきた。一度は習得を諦め、そのままにしてた。


 仲間に頼りきって、目を逸らして、適性がないからと諦めてきた。


 今だって上手くいってない。見よう見まねで、得意分野で誤魔化して、ぐちゃぐちゃのまま使ってる。


 それでも、今この時だけは──!


「──《空間把握(グラスプ)》!」


 修道院を、炎と熱気が包む。


 私にあんな器用な空間属性の使い方はできない。こんな乱雑に空間属性を混ぜた得意分野を広げることしか出来ない。


 でも、これがあれば──!


「《火炎収束(ファイアフォース)》……!」


 思い返せばこの力を意識して使うのはあんまりしてこなかったな。乗り越えこそすれ自分のものにしようとはしなかった。


 その力がどういうものなのか、この十年何一つ分からなかったからだ。

 分かってたことといえば、興奮した時に火の魔力が溢れ出すということくらい。


 ただ、それもシュウトが補ってくれた。


 シュウト曰く、この力の性質は周囲の魔力の吸収らしい。多分、今まではそれが先天属性の火に変換されていたとのこと。


 その性質を知った今なら、もっと上手く使える。利用できる。


「──どこ!レイチェルちゃん!」


 邪魔なものも、怪しいものも、溶かして燃やして消し炭にする。


 ……きつい。こんなものを普段からレイチェルちゃんは使ってたのか……

 ……こんな役目を、押し付けてたのが情けない。


 不慣れなのは分かってる。下手なのも承知の上だ。でも、今この時だけは、私が全部を見通す目になる──!


「──いた」



 地下室の奥、椅子に拘束された仲間の姿を私の目が見つけ出した。

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