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8-31 赤赤赤赤

「はぁ──はぁ──はぁ──」


 や、やっと音が止まった……

 何時間経った……?今何時だ……?


 お腹減った……眠い……喉渇いた……


 襲撃を受けたのが確か夜の十時だから……思い返せば昨日の夜食から何も口にしてない。

 あいつが食事なんて用意する訳ないし……本格的にまずい……


 このままあいつが戻ってきたら、魔力もほとんど残ってない上体力もない最悪のコンディションでまたあの拷問を受けることになる。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ──


 自分が人間ではなくただの肉塊になっていく音、尊厳のかけらもなく淡々と死んでいく感覚、あれはもう、一度体感すれば忘れられる類のものじゃない。

 またあれをされたら、私は、私は……!


 地面に溜まった自分の血と肉が目に入る。今逃げ出せれなければ今夜も私はああなるのだと嫌でも理解させられる。


「っ!そうだ、今、今なら……!」


 上での活動が一段落ついて比較的静かになった今なら落ち着いて魔術を使える。

 論理的思考を失わないうちにできることをやろう。


 狭い地下室をまた視ていく。

 部屋の数は少ない。それぞれの用途もなんとなくわかる。でも違う。求めてる情報はそれじゃない……!


 何か、何か脱出につながる情報を──


「ひっ……」


 ガチャリという音が地下に響く。

 それが意味することは、嫌でも理解した。


 まずいまずいまずいまずい──!


 これまでにないくらい、目を凝らして見える限りのものを視ていく。

 しかしこれといって何か見つけられるわけでもなく、足音が近づいてくる。


 やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろ……!


 怖い、またあれが来る。恐怖で身が竦む。手足が震え椅子がガタガタと音を立てる。


 ついに来るか、そう思った時、『長老』は右折した。


「あ、れ……?」


 来ない。あれはまだ来ない。


 そのほんの少しの猶予が、心に余裕を生んだ。


「何してるんだ……?」


 目を使って『長老』の向かう先を視る。

 ぱっと見私室っぽいけど……ん、なんだこれ?


『長老』が魔道具らしきものを起動する。


 現れたのは、直径ニメートル程の円。なんとなくだけど、空間属性っぽいことは分かる。


 でも、どこか違う。本質的にあれは空間に作用するものじゃない気がする。


 なんだろう……ん、あれ?


「……は?」


『長老』を見失った。一秒たりとも目は離してない。円に長老が触れた瞬間姿が消えた。


 数瞬の思考の末、一つの可能性に辿り着く。


「……まさか、空間遷移……?」


 以前私達が迷宮を強引に突破する手段の一つとして案に上がったものの、結局実現不可能として諦めた手段の一つ。


 あれの実現が確認されたのは数百年単位で前だったはず……いや、構造を見る限り二点間を繋ぐワープゲートみたいなもの?それでもロストテクノロジーには変わりない……


 ……なんであんなもの持ってるんだ?ワープゲートの推測が当たってるなら特定の誰かと会うための物だ。そこまでして会う必要のある人物……教皇か!


 なるほど道理で……いつ教皇から連絡が来たのか、言い方的に直接会ってるみたいな言い方だとは思ってたけど、まさかこんな手段隠し持ってたなんて……


「……あ」


 また『長老』が現れた。円の中から。


 ……まずい。まだろくな情報も集まってないのに帰ってきた。あれが、帰ってきた。


 嫌だ。またあれが始まる。欠片も感情を出さず、何も感じず、ただただ機械的に殺される。


「……嫌だ、やだ、やだ……!」


 身動ぎ一つも許されず、ただあれが近づいてくるのを視ることしか出来ない。


 あいつ相手に嘘は特大の地雷だ。下手すれば本気で殺される。ただ殺されるどころか、最大限痛めつけてからただの肉塊にされる可能性すらある。


 そもそも、まだ私の(きもち)はまだ消えて(おれて)ない。


 こんなクソ野郎どもに人生全部捧げて夢も目標も仲間も捨てるなんて絶対に納得できない。


 この世界で生きてる証も、実感も、失うなんて、受け入れられない。


「朝ぶりだな。よく生きていたものだ」

「クソうるさかったよ、馬鹿なんじゃないの?」

「わざと音を集め、増幅する仕組みになっているからな」

「悪趣味な……!」


 つまり、あんなに足音と祝詞が響いたのはこいつの仕業だった訳だ。本当にキモい。


「入信する気は?」

「無いね。今までの人生を裏切るようなことは出来ない」

「もっと良いものに生まれ変わるぞ?」

「例えそうだとしても、捨てられないものはあるの」

「そうか。では、今夜も法衣を汚すことになるな」

「クソが……!」


 またあの巨大なペンチを取り出す。


 大丈夫、まだ私の気持ちは折れてない。こんなやつに負けない。地下室にヒナ達の姿はなかった。なら、きっといつか助けに来てくれるはず。


 それまで、それまで……耐える。……耐える?


 耐えられるのか?またあの拷問を?怖い、嫌だ、助けてやめて逃げたい──


「では、一枚目だ」

「ぐ、うぅぅ……!」


 せっかく治った、いや、治された爪がまた無くなっていく。



 嫌だ、怖い、やめて、痛い、嫌だ嫌だ嫌だやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ

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