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8-29 赤

「……やっぱり戻る!レイチェルちゃんだけ置いていけない!」

「待て!」

「離してっ!」

「よくやったシュウト!」


 二人で引き留め、無理矢理歩いていく。


「ヒナ、あのな、あいつは本当にやばいんだ。レイチェルがわざわざ時間稼いでるんだ。無駄にするな」

「四人で戦ったら勝てる!」

「一人一人丁寧に殺されるだけだ!」

「はな、してっ!」

「っ!」


 ヒナの体から焔が立ち昇る。その魔力の動きは、どこかで見たような──


「ヒナ、まさか君は……いや、今じゃない。落ち着けヒナ!論理的に考えろ!魂が視える僕とレイチェルが揃ってやばいと判断したんだ!その上で残ったあいつの覚悟を無視するな!」

「……でもっ!」

「ヒナ、カイさん達を呼びに行こう。少し時間はかかるが往復で三日もあれば戻ってこれる」

「それじゃ──」

「レイチェルはうまく行けば自力で帰ってこれるだろう?そもそもあいつだけは殺す意識がある色じゃなかった。負けても死にはしないさ」

「っ……」


 苦悩し、何千回もどうしたらいいと問いかける色が見える。

 ……辛いのは分かってる。でもあれを相手にして全員無事で勝てるほど力は戻ってない。


 申し訳ないけど、レイチェルにも、ヒナにも、少し耐えて貰うしかない。


「行くぞ!」


 ヒナの手を引き、走っていく。


 今は、生きて帰って助けを呼ぶことが最優先事項だ。














「ん……ど、こ……?」


 目を覚ますと、薄暗い……どこだろ、多分地下かな?とりあえず小さい灯りしかない部屋にいた。


 手足は金属パーツで椅子に固定され、服は入院患者が着るようなものになっていた。

 荷物は見える範囲にはない。回収されたか破棄されたかな……


「目覚めたかね?」

「っ!お前……!」


 ガタリ、と無機質を突き詰めたかのような部屋に音が響く。

 腕は動かず、立ち上がることは叶わず、ただただ睨みつけるだけとなった。


「何が目的?」

「教皇様はお前が改心することを望んで、いや、神がそう望んだとおっしゃっている」

「はぁ……?改心って、クレイ教に入信しろってこと……?」

「その通り。背信に満ちたその心を濯ぎ、信心で満たすことが救いである。お前にそうする意思はあるか?」

「入信するのは別に構わないけど……何させる気?」

「手始めに家財の全てを奉じ、この修道院に転居しろ。そうして日に十時間の祈りを捧げ残りの時間は奉仕活動に殉じなさい」

「はぁ〜ん……?」


 要するに全財産捧げて住処を手放し長時間拘束される生活を享受しろと?……無理だ。これが条件を飲んで全部解決するなら喜んで飲んだけど、そうじゃない。

 私がここで長時間拘束されれば迷宮の攻略が止まる。今はアル達の時代と比べて技術が発達してるから被害は抑えられてるけど、悪化していった場合どこまで影響がでるか、どこまで耐えられるか分からない。


 それにこいつに嘘が駄目なのはわかってる。わざわざそんな地雷踏みにはいかない。


「申し訳ないけど、私はここで簡単にうなずけない」

「そうか。しかし教皇様の御意向だ」

「ぅっ……!?」


 手が発光し、思考が強制的に書き換えられていく。


 精神に作用するタイプの魔術か……!落ち着け、目的を忘れるな。私はクレイ教には入らない。生きて逃げ出してみんなと合流する。


 そうやって何度も思考を繰り返す。


「ほう、精神力だけで抵抗したか」

「はぁ──はぁ──」

「では、仕方あるまい」

「……まさか」


 血に塗れたペンチを取り出し、全く変色しない魂をこっちに向け歩いてくる。


「死ぬのが先か、折れるのが先か。まあ、簡単には死なせんがね」

「クソが……」


 巨大なペンチの先が、利き手人差し指の爪にあたる。


「ぐっ……ぃっ……!」

「入信する気になったかね?」

「……嫌だ」

「ほう、先程もだが嘘を避けたな。罰を長引かせたくないならいい判断だ。だが、さっさと終わらせたいなら入信することだ」

「そ、れが……痛っ……」


 嘘はつけない。それをすると多分もっと酷いことになるから。


 逃げられない。この拘束は自力じゃ破壊できない。だから一ミリも体を逃がすことはできない。


「早めに信仰心が芽生えることを祈ることだ」

「ク、ソ……が……!」


 一枚、また一枚と爪が剥がれていく。桜のようなピンクと白が、今では赤一色だ。


「ぐ、ぅっ……!」

「顎を割らないよう布でも噛ませた方がいいかね?」

「い、らないっ……!」

「そうか、では次だ」

「う、っ……!ぁ………ッはぁ……はぁ……」

「次だ」

「っ──!フ──ッ、フ──ッ」


 痛い……でも、まだ耐えられる。四肢がちぎれた時と比べればまだ優しい痛みだ。


「次──ああ、爪が無くなってしまったか。では、次は指の関節を一つずつ切り落としていってやろう」

「え……?」

「どうした?入信するなら今のうちだぞ」

「っ……」


 怖い。正直そこまでするかと思った。

 でも、私の魂はまだ諦めてない。この色に嘘はつきたくないし、つけばどうなるか分からない。


「では、続行だな」


 バチン、と太い枝を切り落としたような音が薄暗い地下室に響く。



 その夜は、呻き声とガタガタという音が絶えなかった。

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