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8-28 殿の使命

「《飛翔氷剣(フロスト・ソル)》──!」


 私がやるのはあくまで時間稼ぎだ。三人が逃げるための、私が逃げるための撤退戦だ。


 最悪隣町まで移動できるだけの魔力があればいい。多少の消耗は気にしなくて、いい。


 私の周りに漂う氷剣は二十本。ここまで明確に害意を向けられたんだ。殺すつもりで行く──!


「はぁっ!」

「ふむ、見事なものだ。だが、少し脆弱に過ぎる」


 手始めに使った三本、それぞれ別方向から振った氷剣が、纏めて破壊された。

 というか触れた瞬間壊れた。


 硬すぎる……化け物か?少なくとも他に比べればパワーは劣るとはいえ聖遺物経由で出したんだぞ?それをこうも簡単に……?


 ……普通に戦ってればすぐにリソースが尽きるな。ダメージは与えなくていい。全力で時間を稼ぐ。


「《飛翔氷剣(フロスト・ソル)簡易短剣(ホーネット)》》……!」


 先に出して残っている十七本を、全て短剣に変える。

 体積的には約十分の一、だけどその分数がある。


 十七本が、百七十本に化ける。


 火力は落ちる。通常と比べれば耐久力も下がる。

 ただ、取り回しのよさとスピードはこれが一番だ。


「っ!」

「逃げるか」

「そりゃ、そうでしょっ!」


 スペースを使おう。多分あの異常な硬さは並外れた身体強化を使った結果だ。

 だとすると距離を詰められるのは非常にまずい。


「喰らえっ!」


 断続的に短剣を射出しつつ身体強化をかけて走る。

 魔力は空間跳躍で私が逃げるために温存しておきたい。こういう点でも一度出したものを再利用して燃費の良い私が残って正解だった。

 できれば全員纏めて跳んで逃げられたら良かったけど──


「よそ見か?」

「──!?っ!」


 咄嗟に二十本の短剣を氷塊に戻し、それと自分の腕でガードするが両腕の骨が折れた。


 化け物め……!どんな強化使ってるんだよ!?

 一ヶ所に集まって纏めて逃げる作戦を選ばなくて良かった……下手したら今ので死人が出る可能性すらあったぞ……


 神聖属性も無属性のように素質が求められる属性である。

 それは単にイメージできるか、人体に作用する物が多いから人体に対する理解度という話もある。

 けど、一般的にこれだと信じられてるのは信仰心だ。


 神聖属性は魔術などではなく神から下賜された奇跡なのだという考えが学会にも侵食してくるレベルだ。


 そういう点で言えばこの男以上に信仰心が強い人間は居ないだろうな……


「はぁ──はぁ──」

「どうした、息が乱れておるぞ。奇跡を使って治療しないのか?それとも背信者には使えぬか?」


 奇跡……神聖属性の魔術のことだろうな。


「っ!」


 実際私の出力じゃ完治まではいかない。だから、血と合わせて痛覚を消し、出血を抑え、氷で固定する。


 動きにくさは減ったけど……これじゃ戦うどころの話じゃない。こんな化け物相手にこの傷で戦える訳がない。


「クソっ!」


 残りの短剣全てを動かし、取り囲むようにして全方位から攻撃する。

 ダメージは期待してない。少し足を止めてくれればそれでいい。


「ふむ。やはり脆いな」

「っ……!」


 予想通りといえば予想通りだけど、全部傷をつけるどころかただ砕け散るだけになった。


 それでも、慢心してるのか足を止めた。


「《灼竜砲(ドラゴブラスト)》!!」


 さっきヒナの攻撃はわざわざ魔術で止めた。

 なら、もしかすると炎ならダメージが通るかもしれない。


 そんな希望は、一瞬で消えた。


「先程の娘と比べてぬるいな」

「チッ……!」


 なら──!


「《曇魔の涙(ニンバスレイン)》、《地震(アースクエイク)》!」


 昔魔闘大会の時偶然起きた足場崩しを意図的に引き起こす。

 もしかしたら建物が崩れるかもしれないけどその時はその時だ。


「少し危険だな。《天光の楔(ライトポイント)》」

「なっ……!?」


 光のような杭が地面に突き刺さし、私の魔術が地面に干渉するのを防ぎやがった。

 魔力を広げて弾いてる?いや、それともまた別の──


「主より賜りし奇跡の力である。疑うことは許さぬぞ?」

「くっ……ならっ!《蒸発(ドライ)》!」

「ぬっ」


 地面に染み込まず、浮かんでいる水を蒸発させ霧を作る。

 これだけ濃ければ多少の目眩ましにはなるはず──今だ!


「《空間圧縮(ディストーション)──」

「させぬよ」

「なっ──!?」


 霧の中から腕が生えてくる。視えてはいても、避けられない。


「ぐぇっ……!」

「では、次に目覚めるときにまた会おう」


 首を絞められ、視界が色褪せていく。


 駄目だ……ここで、意識を失ったら……


「っ!」

「まだ余裕のようだ。少し加減を間違えた屋も知れぬ」


 精一杯の抵抗も、ただの氷片と化す。


 万力の如き握力で絞められ、首の骨を折られたのではと感じるほどの痛みを感じたのち、気を失ってしまった。


「梃子ずったな。この分では他三人には逃げられたな。……まあよい。教皇様からの命令は銀髪のみ生かしその他は適当に処分、また指名手配でもすればよかろう。──では、処置に取りかかるとするか」



 一人の冒険者が、薄暗い地下室に飲み込まれた。

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