8-26 手紙の行方
「あれ、早かったですね」
「はい。アーノルドさんのおかげでなんとかなりました」
「いえいえ、私は何もしてませんよ」
あれからぐったりした愁人を連れて教会に戻ってきた。
「して、無事に終わったという報告に来たわけじゃないんでしょう?応接間へどうぞ」
「ありがとうございます」
私達四人を応接間まで案内し、あのお茶を淹れてくれる。
「だ〜……ほんっと酷い目にあった」
「お疲れ様です。でも先に手を出したあなたが全面的に悪いと思いますよ?」
「チッ……」
お茶を飲んで少し気分が良くなったのか愁人が口を開く。
「まあいい、単刀直入に行かせてもらう。クレイ教の中でもそれなりの立場を持ってるんだろ?教皇の居場所を知らないか?」
「ふむ、教皇の居場所ですか……」
正直クレイ教関係者にずっと秘匿されてきたボスの居場所を尋ねるのはどうかとは思うけど今はこれしか手がかりがないんだ。
なんでもいい。勝手な期待ではあるけど、情報が欲しい。
「実は私も気になって少し調べてたんです」
「っ……!」
来た……!
「以前レイチェルさんが指名手配されたことがあったでしょう?その時に気になって教会の本部、西の大聖堂に手紙を何通か送ってたんです」
「……内容を聞いてもいいですか?」
「なぜあんな命令を出したのか、恐らく教皇が気になってるであろう迷宮関連のことについて、ラタトスクとアンブロシアの動き、この三つをそれぞれ手紙に記して郵送しました」
確かにあの指名手配は明らかに私とアルを狙ったものだった。何か意図があって、それを疑問に思ったアーノルドさんが問い合わせるというのは健全な組織としては割と当たり前の流れだ。
「それで、返事は……」
「帰ってきましたよ、別々の場所からね」
居場所を隠すためか……徹底してるなぁ……
でも、それ郵送会社に問い合わせて郵送ルートを聞き出せば何かの手がかりになるんじゃ……
「郵送ルートは洗い出さなかったのか?」
「やりましたけど大して効果はなかったですね。全部発送元がバラバラでした」
私が思ったことを愁人がそのまま聞く。
「でも、発送元は全部教会関係の建物でしたね。それもかなり重要な、または大きな教会からでしたね」
「大聖堂に送った手紙が全部教会関連の場所からバラバラに返ってきたのか?流石に露骨すぎるだろ」
「多少怪しまれるよりも教皇の居場所の秘匿の方が大事なのかもしれませんね。まあ、誰の思惑かは分かりませんけど」
「教皇の思惑じゃないの?」
「そもそも存在からあやふやですからね。教皇という偶像を使って何か企んでる人間がいる可能性もあります」
なるほど……でもそれここまで教皇についての情報を隠してると逆効果じゃないかな?
聖書に教皇の言葉を疑うな、みたいな文言があったとしてもここまで表舞台に顔を出さないなら影響力は下がっていくし、猜疑心を募らせるだけだ。
実際、私とアルにかかった指名手配も自然消滅するような形で撤回されたし、影響力目当てで教皇を利用するのは難しそうだけどな……
「……あ」
「どうしました?」
「手紙、見せて貰えますか?」
「いいですよ。確かここに……はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
送られてきたという手紙を《空間把握》を使って注視する。
「……やっぱり。筆跡が同じです。多分この手紙、全部同じ人が書いてます」
「そんなことが分かるんですか?」
「はい。多分これ……教皇は実在します」
「……一応聞いとく。根拠は?」
多分周りのことも考えてか愁人が理由を尋ねてくる。
「この筆跡、多分機械とかで書かれたものじゃないと思うの。それで全部同じ筆跡ってことは他に人を使えないってことじゃないかな」
「まあ、そうかもな」
「なら教皇本人、もしくは教皇の部下が書いてるんじゃないかな」
「その前提だとそうかもな」
「少なくとも教皇が実在するのと空想上の教皇を利用してる人間がいるかの二択なら私は実在すると思う」
「……まあ、分からんでもないけど、そもそも前提からあやふやで分からんことが多いからなんとも言えないな」
「……確かに」
正直今出揃ってる条件なら実在する方が可能性が高いと思うだけで確実に実在するとは言いづらい。憶測を積み重ねただけだ。
「まあひとまず実在する方向で調べてみては?私もできることは手伝いますよ」
「ありがとうございます……」
そうしてアーノルドさんから郵送元の情報を貰い、偵察に行くことになった。