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8-24 色彩 

「──ぉぉぉおおおお!!」


 気づかせない。気づいたとしても、何もさせない。

 逃さない。動かせない。抵抗させない。迅速かつ一方的に制圧する。


「らぁ!!」


 氷で保護膜を貼り、身体強化を重ねがけして小さなあばら家の屋根を蹴破る。


「っ──!?お前──」

「させない!」


 多分なんとなくレベルだけど気取られてた。いくつか攻撃魔術が構築されてる。


 けど、その程度なら押しつぶせる。


「《霜獄の(フロストウィント)──領域(フィールド)》ぉ!!」


 愁人の魔術は風が多い。魂の色的に多分先天属性が風と血だから咄嗟に使いやすいんだろう。

 だからすでに構築されてるものは冷気と風圧で押しつぶして、これから構築しようとしてるものは魔法陣に私の魔力を挟み込んで崩壊させ、先天属性の風は小さいものは発生直後を潰し、大技はためがいるからその隙に潰す。


「──っ!」

「はぁっ!」


 逃げるためか、人質のヒナを盾にしに行くためか、走り出そうとしたところを腕を掴み足を引っ掛けて転ばせ、背中にマウントを取る形で取り押さえる。


 抵抗しようとしてたけどそれも無理やり抑え込んで制圧する。

 体格差体重差なんて関係ない。十年学院で戦いを学んだんだ。魔術の相性、不意打ち、調子の良し悪しはまだしもこの状況で負ける道理はない。


「チッ!ヒナがどうなってもいいのか!」

「へぇ、何かできるんだ?」

「ああ!僕が一声かければ──」

「嘘つかないでよ」

「っ──!そうか……!その色、まさかとは思ったがもう克服しやがったな……!」

「本当にいい迷惑だったよ。でもおかげさまでいい視界(もの)を貰った。そこだけは感謝してるよ」

「クソが!視たならわかるだろ汚いんだよ!離れろ!」

「やだね。というかそれも本心ってレベルじゃないでしょ。嫌いではあるけど拒絶するようなレベルじゃない。愁人も汚濁(これ)の仕組みを知って嫌いになれなくなった?」

「なわけあるか!そんなもの作ったやつも、それを甘んじて使い続けてるお前らも、中身を知ろうとしないこの時代の人間も、全部嫌いだ!」

「それもギリギリ本気じゃないよね」

「っ……!本当に面倒くさいなぁ!」


 力と感情のまま魔術を放とうとするけど、それも出だしを潰してまともに発動させない。


「っ……!なら──」

「やめて!」


 また何かしようとしたところに、一人の声が響く。


「ヒナ!」


 連れ去られた仲間を、ベインが助け出していた。


「ごめんレイチェルちゃん、ありがとう。でも、離してあげて。シュウトにも、シュウトのやりたいことがあるみたいだから」

「っ……!ヒナ……!」

「ごめん。でも、もう話すしかないと思う」

「……はぁ。仕方ない。色々事情を話してやる。だから離せ」

「う~ん……大丈夫、かな……」


 魂の色を確認し、嘘じゃないことを確かめてから手を離す。


 にしてもやっぱりヒナにだけ態度が違うんだよな……さっきもヒナの言葉に反応して魂の色が揺らいでたし。


「はぁ……クソ」

「はいはい。何が目的なの?話して」

「……」

「シュウト」

「チッ……わかったよ」


 まだ壊れてない椅子、瓦礫、地面にそれぞれ腰を下ろし話を聞く。


「目的はティターニアと会うことだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「ティターニアさんと?」

「ああ、そうだよ」


 いかにも不服そうに話す。


 ティターニアさん……確か、精霊王の監視と制御、もしものための代役として唯一力を譲渡せず保ち続けた精霊……生きてるのか……?西で精霊が確認された記録がないあたりもう精霊は生き残ってないって思ってたけど……


「ティターニアは生きてる。契約が生きてるからな」

「契約?」

「精霊王としての権能だ。精霊間で交わされた約束、契約、誓約を必ず履行するためのな。その力が今も働いてる。まあ、内容が『ティターニアのもとに帰る』だから効力に差があるけどな。特に、さっきみたいな場面では弱い」

「なんで?」

「なんでって、そりゃお前僕を捕まえてもどうせ協力するだろ」

「う~ん……まあ、確かに」


 そう言われると否定できない。

 別に止めるようなことでもないし、むしろ最初から応援するつもりですらあった。


 ヒナを人質にして逃げ出しちゃったから揉めてるだけで。


「それで心当たりはあるのか?流石にここまでやっといて何一つ手掛かりないのはキツいぞ」

「流石にあるさ。……クレイ教だ。これだけ幅広く信仰されてる宗教なのに()()()()()()()()()()()()()()。僕はこれを死ぬことがない精霊、ティターニアがやってるからだと考えたんだ」

「なるほど……じゃあ今後は教皇に謁見することを目的にしていこうか」

「だな……はぁ。本当は一人でやる予定だったんだけどなぁ……」

「いいじゃん。再開は二人きりがいいっていうなら席外すよ?」

「是非そうしてくれ。なんなら今すぐ」

「シュウト」

「……わかってるさ。僕に目的があるようにヒナ達にも目的があることくらい理解できる。ただ……分かってるだろ。最適解は今この場で僕を殺して迷宮を進めることだ。なのに僕に協力するのかい?」

「うん」

「……はぁ。せめて嘘であってくれよ」


 何度目かはわからかいが、大きく溜め息をつく。

 呆れてるのか、煙たがっているのか、どっちにしても私のやることは変わらない。


「……ヒナ、すまなかった。今封を外そう」

「だね。ありがとう」

「いいや、感謝されることじゃない。むしろ僕が謝るべきなんだ」

「いいよ、別に。目的のためにやっただけでしょ?」

「まあ、そうなんだが……はぁ、やりづらいな。さっさと外してしまおう。──はい。これでもう魔力が使えるはずだ」


 ヒナの魂から微弱な魔力が抜け、輝きが一層明るくなる。


「もう君は自由だ。これまですまなかったね」

「ううん。これからもよろしく、シュウト」

「……本っ当に調子狂うな。……ほら、レイチェル、何からするんだ?もう主導権は僕にはない。お前の好きなようにしたらいいさ」

「なげやりだなぁ……まあ、それはこれから話し合って決めていこうよ。それより一ついい?」

「……なんだい?その色ロクなことじゃなさそうだけど……」

「一発殴らせて?」

「拒否権ないだろそれ!」


 今回の騒動で本当にいろいろやってくれた仕返しだ。

 PTSD発症まで行ったんだ。これくらいいいだろう。


「よくもいろいろやってくれたな!食らえっ!」

「ちょ──」


 私は数時間前までとはうってかわって笑顔で、愁人も同じようにうってかわって顔を赤く腫らして、パァンと音が響いた余韻が場を満たす。



 私の渾身のビンタで今回の一件はひとまず決着となったのだった。

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