8-23 魂の輝き
怖い、嫌だ、逃げ出したい、視たくない。
そんな負の感情が湧き出て止まらない。
でも、私は魂の内側を覗き込んだ。何重にも目を使って、視たくないものまで鮮明に視て、それでもまだ、覗き込んだ。
怖い。嫌だ。逃げ出したい。視たくない。
その気持ちは変わらない。覗き込んでる今もそう思ってる。
でも、それと同じくらい知りたい、嬉しい、逃げたくない、もっと視たいという気持ちがある。
真逆の感情だ。矛盾してる。
でも、これが私の本心だ。
気持ち悪い。けど、これが私のこの世界の人生だと思うと魅入られるものがある。
怖い。けど、これが私のこの世界の人生だと思うと少し嬉しい気持ちになる。
逃げ出したい。けど、これが私のこの世界の人生だと思うとまだ向き合っていたいと思う。
視たくない。けど、これが私のこの世界の人生だと思うと──まだ、視ていたい。
怖い、気持ち悪い、逃げ出したい、視たくない。
複雑で、ぐちゃぐちゃで、矛盾した感情が胸を満たすのと同時に、呼応するように私の魂も輝く。
蒼く、黒く、朱く、白く、色のない光も、目に刺さるようなきらきらも、いろんな色を含んで、纏めて、迸りだす。
ああ──綺麗だ。
「──っはぁ!はぁ……!はぁ……!はぁ……!」
気持ち悪い、手先が震える、脂汗が止まらない。きっと顔色も良くないだろう。
でも、これ以上ないくらい鮮明に、世界が色づいて見える。
「うまくいきましたか?」
「はい。……いろいろと、ありがとうございます」
「いえいえ。私は何もしてませんよ。あなたが頑張ったんです。──それで、これからどうしますか?彼を、追いかけますか?」
「はい」
もう迷いはない。障害もない。むしろいい視界を貰った。
これで、心置きなく愁人を追いかけられる。
「まあ、本当なら休みなさいと言いたいところですが……余計お世話ですね。では、最後に私からのプレゼントです」
アーノルドさんの両手が私の顔に触れ、暖かい光が発される。
「私に手伝えることはこれくらいしかないですが、頑張ってください」
「ありがとう、ございます……!」
なぜか、涙が零れ落ちる。頬を伝い、アーノルドさんの手を濡らす。
「ふふ、涙は似合いませんよ」
ハンカチで涙を拭い、頭を撫でてくれる。
それが今は、どこか心地よかった。
「さあ、行ってらっしゃい」
「はい!」
背中を押され、村雨を抜く。
「行ってきます!」
拡張収納の中に溜め込んでいた魔石と接続し、冷気を放つ。
そしてその冷気を私の体に逆流させ、違う属性の魔力に変換する。
初めての試みだ。疲れるし、いろんな所に負荷がかかる。
でも、平気だ。そんなことより、今のこの気持ちに嘘をつきたくない。
「《空間歪曲・圧縮跳躍》!!」
有り余るほどの魔力で何度も跳躍を繰り返し、高速で移動していく。
目の暴走を調整したお陰で見る魂は制御できるようになった。それどころか前よりもよく見える。
その目を使って、最短距離を見つけ出し、気合いで演算して移動を繰り返す。
ギルドに寄り、荷物とベインをつかんで、ラモルさんから教えて貰った連絡術式でヒナの居場所を特定して、全力でそこまで移動する。
消費は気にしなくていい。まだ魔力は潤沢にある。
今日、私は自分を視た。生きた証を、記録を、自分の想いを、覗き込んだ。
もうこの輝きに嘘はつかない。蓋をしない。隠さない。
自信をもって私は私だと思える。私のために、仲間のために怒れる。自由になって、やりたいことをやって、転移者とか、転生者とか、そんなしがらみも無視して、誰かに植え付けられた感情だとしても、それに嘘はつかない。やりたいようにやる。
私がやりたいから、私は世界を救うためなんて重責投げ捨てて、やりたいようにやる。
ああ──自由だ。