2-22 反省会
「はぁ、はぁ、はぁ……」
乱れた息を整える。
身体強化を掛けているからか回復が早い。
状況が落ち着いたからかようやく思考が回り始める。
結局どっちが勝ったんだろうか。
とりあえずミシェルのとこに集まろう。
全力で走ったあとの体を休めながらゆっくりあるいて向かう。
運動場の端から端まで使ったので結構遠い。
まあいい、ゆっくり行こう。
魔力を使いすぎて目眩がする体を少しずつ動かす。
本当は身体強化も切りたいけど体力の回復のためにまだ止められない。
いまの私の残り魔力は38/561、ほとんど使い切っている。
……結果として見れば勝ったのは私でも、一番消耗させられたのは私だな。
ヒナは妨害され続けて魔術自体を使えないことが多かったし、マルクは上手くやりくりして魔力を節約していた。
こうしてみるとやっぱりまだ異世界らしいことには慣れられてないんだな。
まだどうしても前世の常識に引っ張られてる。まだまだだな。
ただ、逆に良かったところは主導権を握れたことだろう。
常に取れる選択肢を制限してコントロールできていた。
前世の知識と二十年生きてきた経験で強制的に駆け引きに持ち込めるのが今の私の強みだな。
異世界に順応できないなら自分の強みを活かさないと。
さて、自分なりの反省会をしてるうちに全員集まったみたいだ。
「皆さんお疲れ様です。結果としてはヒナさんが負けてしまいましたがよく頑張っていたと思います。」
ヒナが負けたのか。
あのあとマルクは最後までヒナをいなしきったらしい。
「前回同様、だめだったところ、よかったところが見えたと思います。そうですね……それじゃあマルク君から反省点をどうぞ」
「え……っと、そうですね、二人と違って移動手段がなかったことだと思います。そのせいでレイチェルには一方的に距離をとられ、ヒナには距離を詰められました」
おお、うまく返した。結構いきなりだったのにちゃんと返せるとかほんとに5歳児かよ。
「そうですね。そこは痛手だったと先生も思います。
それじゃあ次は、ヒナちゃん、どうぞ」
「え〜」
唸って止まってしまった。
そうだよな?急に言われると難しいよな?
これが正しい反応だ。
唸って5分ほど、口を開く。
「……レイチェルちゃんに魔術を妨害されたことだと思います。妨害に抵抗できたら氷の壁は溶かせたしマルクは捕まえられたと思います」
「そうですね、妨害魔術の対策はあったほうが良かったですね。それじゃあ最後に、レイチェルさん」
「はい、使う魔術の規模が大きくて魔力を使いすぎたことだと思います。目的に合わせた魔術の条件変更、魔力の消費を抑える方法をこれから探そうと思います」
ふう、多分うまく言えたはずだ。やっぱ前世からこういう発表の場は緊張するな。
「そうですね、空間跳躍や氷の迷路、雨の魔術、どれを取っても消費魔力が大きいですね、少ない魔力で解決できるようになりましょう」
これで全員分発表が終わった。
「それじゃあ皆さん、戻りましょうか。
それに魔力使いすぎて少し気分が悪いでしょう。慣れるまではけっこうキツイですしね、今日はもう着替えて寮でゆっくりしてください。詳しい話は明日しましょう」
ミシェルが解散を宣言して、それぞれ歩き出す。
とりあえず着替えようかな……もう目眩で気持ち悪いしさっさと着替えて横になろう。
あ〜フラフラする。今度からは使いすぎには気を付けないとな。
ふらつく足を無理やり動かし、寮まで戻ってきた。
なんとか寝巻きに着替えてベッドに飛び込む。もう動きたくない。
「大丈夫か?」
席を外してくれてたマルクが戻ってきた。
「……やばい」
正直舐めてた、というより時間経過で酷くなった。
もうほんとに吐きそう。
「あんまりひどいなら医務室行けよ?」
「……うん」
そうか医務室か、そういう手もあったな。
……でも正直歩ける気がしない。
うん、寝とこう。
「じゃあ俺ごはん食べてくるから。食べれたらちゃんと食べとけよ?」
「……うん、ありがとう」
先に食べに行ったヒナを追ってマルクも出発する。
外に向かう足音とともに扉の開閉音が鳴る。
今、部屋には私一人、か。
いつもなら喜ぶところだが……今は何かできるような気分じゃない。
「……寝よう」
回転する意識をベッドのクッションに無理やり落とし込んだ。