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8-21 カウンセリング

「……すみません、アーノルドさんはいますか?」

「アーノルド様ですか?」

「はい……」


 地味なパーカーで身を包み、フードを深く被って教会を訪ねる。


 いろいろと怪しいある教会を頼るのは癪だけど、アーノルドさんがここにいる以上しかたない。


「すみません、司教との面会は事前に予約を……」

「あれ、レイチェルさんじゃないですか」

「あ、アーノルドさん……」

「通して上げてください。彼女は私の友人です」

「わかりました。応接間をお使いください」

「ありがとうございます。行きましょうか」

「……はい」


 アーノルドさんについていき、小さな部屋に辿り着く。


「それで、今日はどうされました?あなたがこんなところを訪ねてくるなんて珍しいですね」

「それは……ちょっと、相談があって」

「相談、ですか」

「はい……実は、少し前から、なんというか、その……人の魂が見えるようになっちゃいまして……」

「魂?」

「はい、愁人にやられまして……」

「ああ……彼も少し前から姿を見ないと捜索されてましたが、やっぱり何かあったんですね」

「っ……」

「……少し、嫌なことを思い出させましたかね。ひとまず今はあなたのことからいきましょう。話せますか?」

「はい……」


 脱線しかけた話を戻してくれる。


 ……行けるところまで話してみよう。


「なんか、見える色がおかしくて、歪んで見えて、魂だけがよく見えるんですけど、その周りを黒い魂が覆ってて……」

「黒い魂?」

「多分、これまで吸収した魂だと思います。……それが、本当に気持ち悪くて、もう視たくなくて……」


 思い出しただけで胃袋が痙攣する。何も入ってないというのに、何かを吐き出そうとえづき始める。


「はぁ──はぁ──」

「落ち着いてください、深呼吸です」


 優しく背中をさすってくれる。ひどく冷たい私の体に、人のぬくもりが染みる。


「はぁ……」

「お茶でも入れましょうか。そうですね、薬草も混ぜましょう。少しは落ち着けるかもしれません」

「ありがとう、ございます……」


 アーノルドさんはどこか慣れた手つきでお茶を淹れ、マグカップに注いでくれる。


「いただきます……」


 生姜のような辛さ、薬草のような臭みが鼻から抜ける。味はわからないけど、多分おいしい。

 何かを胃袋に入れたのは多分一日か二日ぶりだと思うけど、不快感はない。むしろお腹の中がぽかぽかしてなんとなく安心する。


「落ち着きましたか?」

「はい……すみません、いろいろ迷惑かけてしまって……」

「いいんですよ。懺悔やお悩み相談なんて日に何件もある話ですから。……それで他の魂が纏わりついてる、でしたか」

「はい……それが魂だけじゃなくて、実際に体に纏わりついてるような錯覚が視えたり、蠢いてるようにも視えたりします」

「ふむ……まあそれが他者の魂という点は間違ってないでしょうね。実際クレイ教(うち)がそんな術式を広めてますし。……彼、シュウトは同じものが視えてたんでしょうか」

「……?」

「だって彼は取り乱しもせず、直視して正確に私達の心を読んだ。今あなたが彼と同じ視界になってるとしたら、少しおかしくないですか?いや、彼が慣れていたからという可能性はもちろんありますが……」

「……いや、愁人の時代ではまだ魂の吸収の術式は広まってなかったはずです」

「なら……やはり、暴走してるのでは?」

「暴走……?」


 想定外の発想が出てきた。


「聞くかぎり視界に起きてる異常は魂が見えることだけじゃないんでしょう?なら、彼と同じ視界だと仮定すると彼が日常生活を問題なく生活できてたことがおかしいでしょう?」


 確かにこの視界で日常生活をまともに送れるとは思えない。

 実際、今日教会に来るまで何回も転けかけた。


 ……また、他人の魂を見ないようにうつむき続けてたことも原因の一つだと思うけど。


「それに、追跡の妨害をしたいならその方が合理的です」

「まあ……そうですね……」

「なら、まだ不明瞭な点もありますが意図的に、または何らかの要因で付与された術式が暴走してるという方向性で考えてみましょう」

「はい……」


 暴走してる……なら解除じゃなくて正常化を狙う?いやても……


「……知識が、情報が足りない。こんな初めて見る魔術、自力じゃどうにもできない……」

「まあそれは私にもわかります。多分精霊の系譜の術式、もしくは彼のオリジナルといった感じですかね」

「……だとすると、本当に私にはどうしようもないです。魔方陣も見えないし、式も分からないし……」

「でも、どこに魔方陣が刻まれてるかは心当たりがあるんでしょう?」

「……はい」


 心当たりはある。……いや、ほぼ確実にあそこしかない。


 ……でも、認めたくない。ただでさえこんなに苦しいのに、その現実を直視したくない。


 ……でも、言わなきゃ始まらない。進まない。ここまでおかしな話に付き合ってくれたアーノルドさんに申し訳ない。


「……無理はせず違う日に回すという選択しもありますよ。心の傷というものはすぐに治るものじゃないですし……」

「……いや、まだいけます」

「……わかりました」


 覚悟を決め、言葉を口にする。


「多分、私の魂の中です」



 最悪の言葉を、口にした。

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