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8-19 精霊の鏡瞳

「何、してるの……!」


 起床後、いつも通り書斎に顔を出すと愁人がヒナを抱えていた。


 気を失ってる……?何か魔術を受けたか暴力を受けた?


「怖いねぇ。でもいいのかい?安っぽいセリフだけど、ヒナがどうなっても知らないよ?」

「っ……!」

「ひとまずその魔術を止めてくれないか。他人に勘づかれると面倒だ」


 武器を持ってる気配はない。けど、魔術を使われると妨害込みでも多分愁人の方が早い。


 ……仕方ない。指示に従おう。


 ほぼ無意識のうちに発動させていた《霜獄の領域フロストウィント・フィールド》を消し、両手を上げる。


 しくじったな……刀は持ってきてないし、村雨は拡張収納(マジックバッグ)の中だ。


 どうにかして取り押さえないと……いや、これも──


「うん。見えてるよ。だから大人しくしててくれ」

「……何が、目的なの」

「話すかよ。わざわざ手掛かりをくれてやる義理はないね。どけ」

「……」


 まるで違う人格に入れ替わったんじゃないかと疑いたくなるほどの豹変ぶりだ。


 本性を隠してた……?


「ねぇ、私達はさ、愁人が望むことを叶えるつもりはあったんだよ?同じ転移者で、同じ人間で、対等でありたいって思ったから……」

「そんな優しい言葉に逃げるなよ。殺す代わりにお願いは叶えます?んなことやって贖罪のつもりかよ。都合のいい解釈してんじゃねぇよ自己中が。どうせこれまでの二人もそんな傲慢で殺したんだろ?」

「……違う……!アルも、桜華も、対等だった!二人とも自分の意思で行動して、それを私達は尊重して──」

「でも、その二人が死ぬ原因を作ったのはお前だろ?」

「ぁ……」

「レポート読んだぞ。アルカディアはお前の態度に耐えられなくて、龍城はお前が実力を過信したことであの惨状を引き起こし仲間を一人失った」

「それは──」

「お前はそれを激しく後悔してるな。ただでさえ醜い魂がさらにドス黒くなってる。気持ち悪い」

「……」


 アルは世界全体への損害と天秤にかけられ、それでもなお自分を選ばれたことの圧迫感から自殺を選んだ。


 桜華はあの時私が少しでも余力を残していたら連れ去られることにはならなかったはずだし、隷属魔術についてもっと調べておけば記憶を取り戻してたかもしれない。


 ……否定、できない。


「そんな自己満に巻き込まれたくないんだよ。頼むから追いかけてくるなよ。まあ、これまでと同じように仲間がどうなってもいいなら追いかけてくればいいさ。その時は目の前でヒナを殺してやる」


 その言葉に、逆らえない。

 ここで下手すればまた仲間を失う。


 そう、理解してしまった。


「……っ」


 でも、ここで逃がせば状況はもっと悪くなる。


 今動けるのは私だけ。なら、私がなんとかしないと──


「チッ。まだ折れてないか。なら、とっておきをくれてやる」

「っ……」


 何か来る。それはわかった。


 でも、ヒナが目に入った。


 ここで避ければヒナが、そう考えてしまった。


「──魔術付与(エンチャント)、《精霊の鏡瞳(スピリット・アイ)》」

「っ……?」


 何かが来る、と身構えはしたものの痛みも衝撃もなく、恐る恐る目を開ける。


「──え?」


 何これ……視界がおかしい……良く見えない……


 ……いや、逆に良く見える?


「その目で色々見てみるといい。僕の気持ちが少しは分かるかもな」

「何、を……え?」


 小さくて、常に揺らぎ続ける、綺麗な焔のような物が見える。

 それが二人に、一つずつある。


 愁人のは明るく、綺麗な緑が見える。

 ヒナのは、時折朱く燦々と輝く色が見えるけど、黒い何かに覆われてしまっている。


 これ──


「そう、()だ。それで自分を見てみろよ」

「私を……?」


 言われるがまま、自分の魂に目を向けてしまう。


 ドス黒く、欠片の輝きもない汚泥の塊のようなものが、目に映る。


 その黒いものは良く見ればいろんな物が混ざりあってできていた。


 蠍やムカデみたいな毒虫に似た何か、肉片の混ざった血、何かの眼球、今にも破裂しそうな袋状の何か。


 それら全てが黒い毒ガスのようなもので包まれ、引き寄せられ、無理矢理繋ぎ止められている。



 ───スキル《沈静化》が発動します───



「うぇ……」


 見るだけで気分が悪い。怖い、逃げ出したくなる、涙がでる。


 それに、なんだこれ……私の魂から糸みたいなのがどこかに延びてる……それも、ヒナのと違って二本も。


「……チッ。本当に気持ち悪い。……そうだな、ついでだ。それが発動したってことはそこがお前の精神の限界なんだろうな。その回廊をぶっ壊してやる」

「何を……っ!?」


 緑の光が放たれたと思ったら、二本の糸が切断された。


「良く見ろ。そしてお前が、お前らが、どれだけおぞましい状態か認識しろ」

「何、を……っ……!」


 嫌でも目に入る。


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い──


「じゃあな」

「待っ──」


 立つ足に力が入らない。追いかける意思が削り落とされる。



 私は、その背中を眺めることしかできなかった。

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