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8-18 いつかの約束

「うん、何となく分かったかな」

「えぇ……」


 あれから数時間後、愁人は何冊か魔術の指南書を読破していた。


 私達がやったことといえば基礎的な文法と単語をいくつか教えただけだ。

 それだけで、新しい言語を習得してしまったのだ。


「いや別に完璧に読める訳じゃない。なんとなく意味を汲み取れるだけさ」

「いやだとしても凄いよ?」

「ヒナが手伝ってくれたおかげさ。もちろん、レイチェルもね」

「……私、何かしたかなぁ……?」


 正直ほとんど何もしてない。何がどうなしてこうなったと聞きたいレベルだ。


「まあティターニアに教わった基礎が通用したからね。この時代の文字に照らし合わせただけさ」

「そっかぁ……」


 なんかもう、レベルが違う。

 この世界に来た時文字の習得を散々父さんに手伝ってもらった私はなんだったんだろう……


「とりあえず得意な風魔術から──っとこれも読んどくか」


 また何冊も本を抱えて机を占領する。ジャンルもバラバラ、どれもこれも小難しいものばっかり持っていく。


 ……さて、こうも一人でなんでも解決されるとやることが無くなったな。

 今は知識を得ることが望みみたいだし、本当にやることが無くなったな……


 ……久しぶりに私も読書しようかな。


 そうして、誰にも邪魔されることなく沈黙が満ちていく。

















 読む、覚える、時折実践し、休憩を挟み、また文字を読む。


 物は欲しがらなかった。娯楽を欲しがらなかった。欲を出さず、人と関わらず、ただひたすらにこの時代の知識を求め続けた。


 なんと安上がりな人だろう。食事も本当は摂らなくていいというから食費も最低限しかかかってない。


 たまに街の外れの森で瞑想──自然のエネルギーを取り込む時間を取るくらいで、それ以外ほとんど外出しなかった。


 間違いなく、これまでの転移者の中で一番動きが少ないだろう。


 そんな生活が、二週間続いた。


「──うん。まあそれなりに使えるようになったかな」

「十分すぎると思うけどな~」

「この時代に精霊が居ないなら自分で力を身に付けるしかないんだ。この程度じゃやりたいことには、まだ届かないさ」

「そう?」

「うん。あの約束には、まだ届かない」

「約束って?」

「……まあ、ヒナには話してもいいかな。──ティターニアに、会いに行くんだ」

「ティターニアさんに?」

「そう。あの日、杜を離れ旅に出た時、『必ず帰ってくる』って約束したんだ」

「……そっか」

「──そして、その約束は今も続いてる」

「……シュウト?」


 少し、空気が変わった。


「精霊王の本質は契約の履行。精霊が関わった約束、願いを無条件で引き受けそれを履行すること」

「シュウト……?」


 今までの


「そしてそれは、王とその他の精霊で権力の優劣こそあれど、精霊王にも適応される」

「っ……まさか──っ!?」

「ごめんね。僕の『約束』のために、少し手を貸しておくれ」

「《フレイ──がっ──!」


 目の前が真っ白になる。直接触れられた訳でもないのに、指の一本も動かせなくなる。


「な、に……これ……?」

「練習した甲斐があった。権能と魔術の複合、やれば出来るじゃないか」

「けん、のう……?」

「──ごめんね。少しだけ、眠っていておくれ」

「う──」


 意識の糸が切れる。視界は白から黒に染まり、体の感覚が消える。


 ──ただ、最後に声が聞こえた。


「愁人……!何、してるの……!」

「……チッ。早いな……」



 蒼く、白い魔力と怒気を纏う一人の冒険者が立っていた。

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