8-16 小休止
「いやぁこんなに豪華な食事を奢ってもらってありがとう。この時代の金銭感覚は分からないけど注文すればこのレベルの料理が出てくるあたり相当農業や牧畜なんかが進化してそうだねぇ」
「やっぱりシュウトの時代とは違うんだ?」
「そうだね。僕の時代じゃこんな香辛料が誰でも使えるなんて考えられなかったからね」
卓上の瓶を手に取りながら愁人は話す。
やっぱり異常気象が原因で産業が発達しなかったのかな。
「っと、冷める前に食べようか。頂きます」
「頂きま〜す」
皆で手を合わせ、食事に手をつける。思い返せばここまでの大人数で食卓を囲むのは初めてかもしれない。
「ところでレイチェル、君はそれで良かったのかい?メニューを見る限り少しランクの低い物のようだけど」
「うん。味音痴だから高いの食べても違い分かんないしね」
「……そうかい」
まあ、嘘ついてるのはバレてるだろうな……
でも味はわからないし、味がわからないとモソモソしてるだけだから栄養とれるなら安いのでいいんだよな……
とりあえず変に気まずくするのも良くないし、そういう事にしといてと目線を送っておこう。
「さて、そろそろ僕も質問いいかな?」
「いいよ~何から聞きたい?」
「ありがとう。まあ、質問というか、この時代の知識が欲しくてね。地理、文化、特産品、宗教、なんでもいいんだ。この時代のことが知りたい」
「あ、ならさ、書斎があるよ。レイチェルちゃん貸してもいいよね?」
「どうします?カイさん」
「いいんじゃねぇか?」
「なんでカイさんが疑問形なんですか」
「あそこ前ギルド長がほぼ私物化してたからか。何があって何がないのかは俺にもわからん。むしろ整理整頓してくれって感じだ」
あそこはアルの時に一回整理したと思うけどまた荒れてるのか……
「だからまあ勝手に持ち出さなきゃ好きに使ってくれて構わねぇよ。けどな、お前らその前に一回寝ろ。探索に入ってからもう丸一日経ってんだぞ」
「そういえば……」
いろいろあって忘れてたけどなんだかんだ探索開始から大分時間が経ってる。
「ヒナ、そんなに時間経ってたのかい?確かに地上に戻るのに十時間くらいかかってたけど……」
「……まあ、うん。そうだね……」
「てっきり僕が増えたから時間がかかってるものだと思ってたけど……うん、一回休憩にしよう。具体的には八時間ほど」
「……はい」
まあ、これからいろいろ頭使うし睡眠を挟んでからがいいだろうな。
「それじゃ、一部屋借りて来る。会計は頼むよ、アベル」
「ああ。経費で落としとく」
「じゃあ、私達も一回ここら辺で帰るね」
「ああ。またな」
「うん。また」
各々自室に戻って行く。
……流石にちょっと疲れたな。しっかり寝て明日に備えよう。
今は……午前の十一時か。昼夜逆転するなぁ……でも流石に眠たいし諦めて寝よう。
「おやすみ」
私一人の部屋に、私の声が染み入っていく。
いつの間にか、意識は暗い微睡みに落ちていった。
「……ん」
差し込む朝で……とは行かなかったが、目が覚める。
今の時間は午後七時、ちょうどあれから八時間後だ。
……所々筋肉痛はあるけど体調は万全。しっかり休んだ甲斐があった。
「よい……しょっと」
毛布を畳み、寝間着から着替え、《冬空の藍衣》に袖を通して髪を梳かす。
体の汚れは村雨で消したし……うん。身だしなみはこんなところでいいかな。
「……行こう」
薄暗い部屋から出て、書斎に向けて歩き出す。
ギルド内では《空間把握》を使わないようにしてるからみんながいそうな場所を虱潰しに当たっていくしかない。
さて、いるかな──
「あ、レイチェルちゃん!おはよう!」
「おはよう。いい夢は見れたかな?」
書斎の書類が散乱した山の上に、二人の姿があった。