8-15 思惑
「うおっ」
黒い光の刃が奔る。膨大な魔力の収束体が、一人の精霊目掛けて放たれた。
「っとと……流石に怒られるか」
「大丈夫?」
「なんとかね。はぁ……全く喋らせたいのか喋らせたくないのかはっきりしてほしいね」
……確かに。昔のことを私達に知られたくないならこれまでと同じように記憶をなくせばいい。
なのにそうしなかった理由……私達に昔起きたことを知ってほしい?でも自分の正体は隠しておきたい……そんなところかな?
でも何のために?私達に昔に起きたことを知らせて何をさせたい?何をさせたくないんだ?
……わからない。
「結局その後どうなったの?」
「ん?結局その転移者は見つけられず魔族魔物側が用意した策を実行して、邪魔されて不完全なまま動かして気がついたらここにいたね」
「へぇ~……」
「ヒナ、昔のことだし今は迷宮にしか魔物はいないんだろう?あんまり気にしなくてもいいさ」
「でもどうやって解決したかは気になるなぁ」
「それはねぇ、魔物全部が一つに融合して巨大な魔力炉として迷宮の最深部に接続したのさ。足りない魔力を魔物が補って地上を滅ぼす必要をなくしたのさ」
「え、でも魔物って結局星の魔力から作られたんだよね?じゃあもとに戻っただけで何も変わらないんじゃ……」
「まあ、そうだね。生活が苦しいから借金して誤魔化してるようなものだし。完全な状態で接続したとしてもいつかは再発してただろうねぇ……それこそ利子が膨れ上がって、より大きい滅びが来るかも。実際この時代の異常気象は技術が発達してるから耐えられてるだけで僕達の時より進行が早い。地上に魔物が湧き始めるのもそう遠くないかもね」
……早く止めないと。
「……とりあえず、昔にあったことはここら辺でいいんじゃないか?」
「え~でも他にもいろいろ気になる!結局迷宮って魔王の城だったの?」
「……。そうだね。魔王はあの迷宮から自分達は生まれ落ちたと言っていたよ。詳しいことは聞かなかったけど構造を見る限りこの星の中心に繋がってたし、多分魔物を産む機構があったんだろうね」
「そしてそれを今は黒幕が再利用してると」
「多分その推測の通りだろうね、カイさん」
最深部を黒幕が利用してる……魔物を倒しても勝手に魔石に変換されるのは黒幕の仕業?
昔は普通に死体が残ってたらしいし、魔石になる今の方が多分異常なんだろうな。
「ん~じゃあ黒幕は何をやろうとしてるんだろう……」
「それは僕にもわからないね。自分のところまで辿り着いてほしいのか、そうじゃないのか。昔のことを知ってほしいのか、バレたくないのか、どうも思惑が掴めない。……さて、いい加減ここら辺でいいだろう?僕も喋り続けて喉が渇いた。ここからは食事でも摂りながらにしないかい?まあ、精霊に食事をする意味はないけどね」
「自然のエネルギーを使って生きてるから?」
「その通り。でもまあ食事を楽しむことはできるからね。たまには食べてるよ」
「そうなんだ……」
「……何か不味いことを言ったかい?」
「え──うんん。なんでもないよ」
……ヒナ、それはちょっと分かりやすすぎない?
魂が見えるとか関係なくバレると思うなぁ……まあ、バレて困ることでもないけどさ。
「まあみんな腹減ってるだろうしちょっと遅めのご飯にしようか」
「ですね。お金出しましょうか?活動費の一環として」
「お、いいのか?」
「経費で何とかしますよ。その代わり今後も調査に協力していただければ」
「うっしタダ飯ゲット」
「ありがとうございます」
大丈夫かなぁそれ……まあどっちみち私達からも頼むことになってたと思うし変わらないのかな。
「じゃあ行こ!オススメのメニュー教えてあげる!」
「そうか、楽しみだ」
また場所を移し、お話は続いていく。