8-14 名無しの王の過去3
あれから何年も旅をした。
バカみたいにでかい魔物を倒したり、アホみたいに面倒くさい問題を解決したり、勇者らしいとは主はないけど、それなりに英雄的な旅をした。
道中、仲間が一人増えた。転移者だ。
アルカディアはどこからか情報を仕入れ、その転移者と接触し、勧誘に成功した。
その転移者は魔物の体に乗り移っていた。
骸骨……スケルトンだったかな?
探すのに苦労した。そこにいることは分かってても全見た目が同じで同じような襤褸を纏ってるだけだから見分けがつかなかったんだ。
結局なんとか僕が百体近くのスケルトンの魂を見て見つけ出した。
幸い、説得するまでもなくアルカディアに賛同してくれた。
「私達も現状に不満を持ってます。あなた方に協力することで変えられるなら協力しましょう。まあ、不満を抱けるほど知性がある個体が何体いるのかは分かりませんけどね」
「だな。さっきから何か言ってるけど特に意味はないんだろ?」
「ですね。単に知らないものが来たから見に来たとか、その程度の意味しかないでしょう」
まあだろうな、なんてことを考えながら会話を聞き流す。
これまでいろんな魔物と戦ったけど本能と呼べるもの以外の知性を感じたことはなかった。どれも直線的で愚直に突っ込んでくるだけだったから楽だったけどね。
「魔王の居場所は知ってます。案内しましょう」
「助かる」
そうやってこのスケルトンに……確か名前は冰住だったかな?あまり長い間一緒に行動したわけじゃないからよく覚えてないけど多分あってるはず。
それでそのまま歩いていって、魔王と対面するに至った。
「貴様らがヒトの勇者とやらか」
いかにもな感じのやつが出てきたね。ここまでテンプレ通りだと逆にやりやすい。
「そうだ」
「……私と戦うか」
「……そうだな」
「……ならば戦う前に一つ話をしよう」
「……いいだろう」
戦う前の口上かと思ったけど、実際は違った。
「貴様らは召喚されてから一年。我々にとってはそれ以前から戦い続けていた。……多くの者が傷ついた。多くの者が地に還った。多くの者が悲しみに暮れた。……もう、十分だろう。こんな生物として間違った争いはやめにしないか……?」
悲嘆に満ちた魂が見えた。
多くの部下を死地に送り込んだんだろう。自我と呼べるようなものがないとはいえ手塩に掛けて育てた魔物だったんだろう。
もううんざりだ。こんな間違った戦いは早く終わらせるべきだ。
そう、魂の蒼い輝きが目に刺さる。
「……俺もだ」
「……貴様もか」
「……ここに来るまでに多くの人が死んだ。多くの人がこれで世界が救われると盲信して俺に財産をなげうった。多くの仲間を失って、多くの犠牲を支払って、今ここにいる。……けど、もう戦いたくないんだよ……平和的に解決するなら、それが一番いいじゃないか……!」
両者とも、涙が零れ出していた。
互いに種族の代表としてここにいる。多くの犠牲の上にここに立っている。
でも、両者ともに戦意はなかった。
永く、永く続いた争いの末、和平という道を選んだのだ。
「けど解決策がないだろう?申し訳ないけど僕は言うよ。僕らは魔王を殺し全ての魔物を地に還し平和を取り戻すためここに来たんだ。それをここで投げ出せば第二第三の勇者が誕生するだけじゃないかい?」
「……それについては解決策がある。我々でなんとかする」
「本当か!?」
「ただし、魔族魔物という種族が完全に姿を消すことになる。……貴様らにとっては喜ばしい話だろうがな」
「いや……それは……」
「いいのだ。元々異質なのは我々の方だ。それに地上を滅ぼすためだけに作られた生命ということもあってか生存欲や性欲と言ったものが薄いのだ。気にしないでくれ」
折角和平を結んだというのに、その相手を犠牲にしなければいけないというのはなんとも気分の悪い話だが、僕からすればあの杜が残るならなんでもよかった。
「ただ、一つ気がかりがあってだな……」
「なんだ?手伝えることならやらせてくれ」
「いや、実は我々にも転移者が一人いたのだ」
「冰住じゃなくてか?」
「ああ。冰住に関しては完全なイレギュラーだ。冰住とは別で呼び出した転移者がいる。名前は──」
恐らく、黒幕の名前が呼ばれる。
「灰染──」
黒い光が、愁人目掛けて迸った。