2-21 全力のぶつけ合い
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463/561
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目に見えて魔力が減っていく、この二年と一ヶ月で積み上げてきた全てを使って閉じ込めることに特化した冬獄を作り出す。
ただこれでも事前に水を撒いてあるから消費は軽いほうだ。事前準備はほんとに大事だな……
この場にある全ての水を使い切るつもりで氷に変換する。
結果、地面から幾つもの氷壁が生成され、天井も塞ぎ、二人の行動を制限する。
子どもの身長に合わせて小さくしてこの消費魔力か……。
それにだいぶ杜撰なところが多い。ここまで状況を整えてこの消費魔力と完成度ならまだ対策を用意する必要があったな。
「はぁ、はぁ……」
消費魔力が大きすぎて目眩がする。杖を文字通り杖にしてなんとか立つ。
一気に体力の魔力を使ったせいだろうか。体から何かが抜けた感覚がある。
こんな副作用出るのか……。
しかし、まだ手は止められない。このあとまだ二人を妨害しないといけない。
絶対壁を破壊して脱出を試みるからな。
残った魔力は284/561。この魔力を100まで削ってさらに魔術を構築する。
この一ヶ月の集大成、ここまでのただ規模が大きい魔術とは違う、三属性複合魔術を構築する。
まだ理想の形には程遠い。まだこの擬似的な室内限定でしかロクに使えないほどだ。
ただ、妨害性能は確かだ。
ここまで状況を整えて失敗する訳にはいかない。
「『全ては停滞する』『希望を失い』『私の手の中に』」
必ず成功させるため詠唱も作った。
この一ヶ月、何度も何度も繰り返し、馴染ませてきた。
自然と魔力が身を巡り、重密な冷気となって放出される。
──今ならいける!
「《霜獄の領域》!!」
膨大な量の情報が送られてくる。
ヒナとマルクの位置を捕捉し、二人の位置を中心に密度の高い冷気を流し込む。
これである程度の魔術は妨害できるはずだ。
とくに先天属性じゃない属性は魔法陣を構築する必要がある。
その陣の構築の際、私の魔力を冷気という形で混ぜて構築の妨害をする。
これで二人は真正面からこの迷宮を攻略せざるを得なくなった。
案の定ヒナが壁を溶かそうとしてたので冷気を濃くして妨害する。
いかにも驚いた顔をしてるがこんだけ魔力使って作った迷宮がこんな簡単に突破されては目も当てられないのでほんとやめて欲しい。
ってまだ溶かそうとしてる。さっきより火力高いし。
正直このまま押し合いになるのは残りの魔力量的にやりたくはない。
……仕方ない。もっと魔力を消費して火を出せないくらいにしてやろう。
冷気を操作してヒナの周りの温度をいっきに下げる。
おそらく気温は0℃をきっているだろう。
まだヒナは火を起こそうとしてるが出だしの火力の低いところを冷やして潰しているので生暖かい空気になって霧散する。
三分ほど押しあった結果、諦めて迷宮を歩き始めた。
よし、ヒナは大丈夫だな。
マルクの方は……歩いてすらないな。
まあヒナと違って動く必要がないし消費した体力や魔力を取り戻すため最大限警戒しながら休むつもりなのだろう。
まあ私から攻撃する必要もないし最悪もう一回ヒナの相手してもらおう。
それに、時間を使ってくれるのはこっちとしても助かる。
《霜獄の領域》の維持だけで魔力食い続けてるし、集中を切らすとヒナを見失うので維持も含めて一歩も動けない。
というか動かないこと前提で構築している。
杖は大きくしてるし目は瞑っている。
私自体は迷宮の外──というか上にいるのでこっちに来ることはないにせよヒナは何をしでかすか分からないから動けないのでなかなかなピンチでもあるのだ。
時間は開始から四十分、あと二十分、このままいけばいいんだが……まあ多分そうはいかないよな。
今はまだ大人しく歩いてるが絶対どっかでもう一回溶かそうとしてくるぞ。
まあそのときはマルクのいる場所までの壁を全部還元して囮にしよう。それで多分時間は使い切るだろ。
これからのプランを練っていると予想通り痺れを切らしたヒナが溶かしにかかった。
終了までは残り十分、囮作戦をやってもいいが多分十分もあったら巻き込みに来るよな。
「ふぅ……」
深呼吸をして自分に喝を入れる。
仕方ない、もう少し時間を稼ごう。
具体的には残り五分くらいまで。そこまでいったら血属性魔術で身体強化して逃げよう。
それまであと三分ほど、ヒナの火力を抑えて壁が溶けないようにすれば良い。
たった三分、簡単だろう。
自己暗示をかけながら冷気を集める。
溶けかかった壁を補強しながらさっきより強まった火の勢いを冷気で相殺する。
ただ命綱の魔力まで使わないよう気をつけながら、慎重に、時間を稼ぐことを第一に考え相殺していく。
こうも弱腰になるとやっぱりヒナのほうが火力が高い。
溶かされるのも時間の問題だろう。
だがやるのはあくまで時間稼ぎだ。目標の時間まではあと三十秒ほど、冷気を強めて確実にヒナの足を阻む。
「うわっ!」
強まった冷気に対してヒナが馬鹿みたいに火力を上げてきた。どれだけ魔力を使ってるんだ!?
くそっ!仕方ない、少し早いがマルクにパスしよう。
予定通りにはいかないな。仕方なくヒナとマルクの間の壁を全て消す。
壁が消えて《霜獄の領域》が維持できなくなったがヒナとマルクの目が合うのはなんとか確認できた。
マルクには気の毒だがあと五分、相手をしてもらおう。
あとはもうできることは無い。逃げよう。
「『血強化/筋力増強』!」
恐らく二人の戦闘が始まった音と同時に走り出す。
何も見ず、振り返らず、全てを置き去りにして。
もうただがむしゃらに走った。あとは二人のどっちが鬼でもこっちを追うという選択肢を作らせないことが先決だったから。
ただ、全力で走って──
「終了!!」
スピーカーのような物から終わりの合図が鳴り響く。
私の勝ちだ。