8-11 処遇
「はぁ……やっと満足に息をできた気分だよ……」
あれから愁人を連れて地上に帰還した。
新層を踏破したというのにこの釈然としない気持ちはなんだろう。
「でもたまには戻りたいねぇ。まさか迷宮内に精霊の杜が作られてるとはね。まだ僕を王として認識してるみたいだし、たまには顔出さないと」
二十一から二十九層の森は愁人いわく昔の精霊の領土を再現してるらしく、そこにいる精霊も愁人のことを今でも王として捉えてるんだそうな。
まあ、精霊と会話できない私にはわからないけど。
「ふむ……こうして見て実感したけど本当に違う時代なんだね。僕達の時代の北って言ったら魔物あふれる地獄の具現って感じだったんだけどねぇ。草木の一つも生えてなかったから息苦しいの何のって」
「でも結局魔王討伐は成功させたんでしょ?」
「あれを成功って言っていいのかわからないけど……まあ、目的は達成できたんじゃないかな?」
「それも後で聞いていい?」
「いいとも。事細かに話すとしよう」
……なんか、愁人とヒナが仲良くなってる。というかヒナに対してだけなんか態度がフランクだ。
「あ、これが君達の本拠地?」
「そうそう。いろんな施設が纏まっててね、広いし何でもあるんだよ~」
「へぇ。面白そうだね。後で案内してくれないかい?」
「いいよ~。いいよね?」
「いいぜ。ヒナがついてるならまあ大丈夫だろ。なあ?アベル」
「……まあ、いいだろう」
「やった~!じゃあいろいろ見せてあげるからね!どこから行こっかなぁ~」
そんな呑気なことを話しながらギルドに入っていく。
「さて、すまないがギルド探索はちょっと待ってくれ。先にシュウトの扱いを決めなきゃだからな」
「は~い」
「わかった。まあ迷宮から沸いて出てきた精霊を信用しろって言う方が無理あるもんね。どうぞお好きなように」
「とはいってもなぁ……アベル、今まで使ってきた手は駄目なんだろ?」
「はい。実際に迷宮から転移者が召喚されることは確認できましたが、同じようにれっきとした人で、知性があることも確認されました。このまま非人道的な対処をするならまた別の処置がアンブロシアに下されることになります」
「だよなぁ……」
GPS魔道具も監視員も立てられない……けどこのまま野放しにして姿を眩ませでもされると大変なことになりかねない。
難しいな……
「……よし、シュウトをアンブロシアの客人として招いてることにしよう。部屋も酒場も自由に使ってくれていい。けどギルドから出るときは一言声をかけてくれ」
ギルド内なら誰かしら目があるから動向を把握しやすい……って感じかな。
それでも以前と比べて監視が緩くなったことに変わりはない。
もし昔の領土が気になったから、なんて言い出して居場所がわからなくなればこれまでやってきたこと全てが水の泡だ。
要望は極力叶える努力はする。できるだけ対等であろうとも思う。
でも、本当に残念だけど、ここだけは譲れない。
梓川愁人は私達で殺さなきゃ前に進めない。
「……怖いねぇ」
「あ、ごめん……」
「いやいや、新層解放の条件は僕も知ってる。仕方ないさ。でも流石にそんなの向けられるとねぇ」
「……自重する」
「そうしてくれると嬉しいかな。とりあえず僕はお客様扱いでいいのかな?できれば個室を一つ借りれると助かるんだけど」
「それくらいならまだ空き部屋があるはずだ。好きに使ってくれ」
「ありがとう。まあ荷物の一つも無いけどありがたく使わせてもらうよ。──さて、そろそろ僕の処遇の話しは切り上げてもいいんじゃないかな?」
本人が提案してきたか……
「みんな気になってるだろう?僕らの時代に何があったか、それが今の時代にどう繋がってるか、何が起きてるのか。僕は全部覚えてる。──聞くかい?」
「……はい」
「わかった。じゃあ最初からいこう」
名もなき精霊の王の口から語られるは太古の昔の御伽話。
哀しき勇者と魔王の物語が紡がれる。