8-6 人工聖遺物
ベインの新しい刀、《勾玉》は二刀一対の刀で、二本とも同じ能力を持つらしい。
切れ味増強、強度増強、自動修繕……まあ、いろいろ能力はあるらしいけど、一番目を引いたのは魔術を刀にまとわせる能力だった。
炎をまとえば斬撃と同時に火傷でも攻撃でき、風をまとえば速度が上がるし、風圧で抉るように攻撃することもできる。
けど、本命はそこじゃない。
飛ばせるようになったんだ。斬撃を。
詳しい話をすると纏わせた魔術を振りの勢いを利用して飛ばしてるらしい。まあ、属性が何であってもきっちり斬れる理由はよくわからないけど。
まあ本人は斬れれば何でもいいいいて感じだったし、それは一旦置いといて……
重要なのは、本来近接攻撃しかできない、よくて投擲くらいの生粋の剣士が自分の得意分野で遠距離攻撃できるようになったことだ。しかもかなりの高火力で。
今まで中、遠距離の攻撃は不得意な魔術で誤魔化してきたけどこれからは得意の近接戦の技術で遠距離も戦えるようになる。
本当にオールラウンダーじみてきたな……私達より戦魔術師やってない?
「──ねぇ」
「わっ」
「どう?面白いでしょ〜」
ヒナの《燦夢の外套》にもいろいろ能力があるらしいけど、一番凄いの……いや、一番エグい能力は透明化と気配遮断だ。
実際には透明になってるわけじゃなく、背景を投影して溶け込んでるだけらしいけどそれが高性能過ぎて見分けがつかないからこの際透明化と呼ぶが、これがまたえげつない能力になってる。
ヒナはもともと機動力がある方だ。そして、魔術メインで戦う都合上敵が近すぎると火力を出しづらくなる。
ヒナもちゃんと体術剣術は学んでるけど、身長体重がないのもあって結局一番火力が出るのは魔術だ。だから、ヒナにとっては近づかれることが弱点になる。
それを今回《燦夢の外套》で補えるようになった。
具体的言いうと、透明化しながらの高速移動で戦闘中でも姿を隠し、見失わせられるようになった。《空間把握》一枚じゃ普通に見落とすレベルだ。
しかも自動で展開される障壁で防御力もあるから大抵の攻撃は弾ける。
硬い、早い、それでいて火力もある。これほど戦いたくない相手はいないだろう。
このヒナを倒したいならヒナより早く移動できて、近接戦に持ち込めて、障壁を突破する火力を出せることが条件になる。
……うん、エグいな。
ちなみに私の《冬空の藍衣》にも障壁機能は付いてるらしい。まあ、回避することが多いし頼る場面はあんまり無さそうかな。
「なあ、ヒナどこ行った?不死鳥でやった《焔の太刀》を《勾玉》で試してみたいんだが……」
「ん?私はこっちだよ」
「あ、いた。なあちょっと軽く火くれよ」
「え~?なんかヤダ」
「ヤダってなんだよヤダって」
「ん~じゃあ私を捕まえられたら手伝ってあげる!それじゃ、スタート!」
「あ!おい!」
またヒナが透明化し、訓練場を走り回る。
得意の《灼竜翼》は使わず、ただ走ってるだけだけどそれでも見えないというのは大きいのか、まったく追い付けない。
しかも一時間くらいずっと起動してて元気だから多分燃費もいい。
ほんと、値段に釣り合った……いや、それ以上の物が来たな……
「あ、いたいた」
「カイさん?」
「アーノルド達に連絡ついた。つっても、人数多そうだからナズナとベンは辞退したけどな」
「そう、ですか……」
「まあ人数多すぎるとかえって危ないこともあるからな。というわけで俺とアーノルドだけ参加だ。いや~久しぶりの迷宮が楽しみだぜ。お前らも新しい武器作ったんだろ?」
「はい。私はこのコートと、ベインは刀を二本……あ、カイさんヒナがどこにいるか分かりますか?」
「ん?あそこだろ?」
そう言うと簡単に居場所を当ててしまった。
「……凄いですね」
「カンだ。お前には立派な眼があるんだからカンに頼らなくても見つけられるだろ?」
「まあ、そうですけど……」
なんでこの人簡単に見つけられるんだ……?
「んじゃ、また明日な」
「はい、また明日……」
結局カイさんの凄さを再認識して分かれることになった。
なんかいろいろ親身にしてくれたり事務仕事やってたりで忘れがちだけど、あの人今も最上位ランカーだからなぁ……