8-2 現状
「ふむ……結果から言いますと、身体的な異常は見当たりません。至って正常な状態です」
「……そうですか」
「やっぱり代償を払いすぎたんでしょうね。治るかどうかは……なんとも言えません。たまにいるんですよ、魔術の知識がある冒険者がこうやって無理して後遺症が残ることが。程度によっては治る人もいますが……一ヶ月経ってその片鱗がないということは期待しない方がいいかと思います。もう、無理しない方がいいでしょう。次はどこに後遺症が残るか分からないので」
「……分かりました」
診察の結果、身体的な問題じゃなくて代償を支払ったことによる後遺症と診断された。
そっかぁ……治らないかぁ……
「……ありがとうございました」
診察室を出て、外で待ってるカイさんと合流する。
「どうだった?」
「……治らない、って」
「……チッ。そうか……」
今まで別に食を重視して生きてきたわけじゃないけど、もう一生分からないとなるとさみしく感じてしまうな……
「……そ、そういえば、ギルド長辞めさせられたって聞きましたけど、次は誰がやるんですか?」
「次?」
「はい。マルクはまだ継げないから誰がやるのかなって」
「あー……それな、うん。いない」
「……はい?」
「引き継ぎ先がいないんだよ。トップ不在だ」
「それまずいんじゃ……」
「んーまあなんとかするんだろ。実際俺も仕事は秘書が半分以上やってたし、求められる仕事は一番最後のゴーサインを出す役だったしな。まあ俺はいてもいなくても変わらないレベルだったしどうにかはなるだろ」
そんなものなんだろうか……
「まあゴーサイン出すだけならマルクがやるだろ。本来の後継はあいつだしな。というかこれで俺はフリーに戻れたわけで……やっとまた迷宮に行けるな」
「あ……」
そうか……今までトップが死ぬと大変だからと止められてただけで、この人はもともと最前線を探索してたベテラン冒険者だ。
本人にやる気が残ってるならそりゃ戻ってくるよね……
「まあなんだ、アーノルド達もよんで大所帯で三十層まで行くか?」
「あー……」
今のところアベル、カイさん、私達の三勢力が同じ場所を目指してるし、それぞれ協力する意思もある。
……これ、かなり楽になるんじゃ……
「……じゃあ、お願いします。アベル達の依頼を受けることになったらお願いします」
「分かった。アーノルド達には俺から話しておく」
「ありがとうございます」
カイさんに手伝ってもらうのは考えてなかったけど、いざ一緒に行くとなると心強いな。
二十層以降なんて何があるか分からないし、戦力はいくらあっても困らない。
「じゃあ、ちょっと二人に話してみます」
「おう。あれ使うのか?魔道具の……ほら」
「いや、通声機は使いません。──《魂鼓波動》」
「お……?」
この一ヶ月、少しずつ練習して無詠唱で使えるようになった。
ヒナとベインも短めの内容なら送れるようになったし、情報共有という面では何よりも大きい収穫かもしれない。
「またなんか身につけてきたんだな」
「はい。亜人の人達に教えてもらいました。離れた同胞と話すための術だそうです。これを教えてくれた人ははぐれた子供を探すために学んだそうです」
「そうか……見つかったのか?」
「ベンさんだそうです」
「マジか!?」
まあ、だよね。
「今度故郷に顔出せって言っとくか……あ、でも場所が分かんないのか?」
「それはマルクが何とかしてくれると思いますよ」
「それもそうだな。言うだけ言っとくか」
そんな話をしつつ、ギルドに帰っていく。
……とりあえず、暗い話題から離れられて良かった。
まあ、楽しくない話題なんて必要が無いなら話す必要は無いんだ。
私のことなんだから、落ち込むのは私だけでいい。
……はぁ。まあ、仕方ないよなぁ。むしろ生活に支障がない部位だっただけマシと考えるしかないか。
……まあ、今はこんな嫌な事より他の事を考えよう。
そんなふうに、前向きに考えながら久しぶりのラタトスクを歩いていく。