8-1 旅の指針
「あ、アベル?」
「そうだ。では、改めて名乗ろう。王国魔導師団第六魔導隊所属、アベル・ダストロムだ。俺を含む五名が今回、国営冒険者ギルドの問題行動について査察する命を受けここへ来た」
「は、はぁ……」
……凄いな。ほんとにガチのやつじゃん。
「……まあ、自己紹介はこんなところでいいだろう。──何やったんだ?」
「ああ、うん……えっとね──」
今直面してることを事細かに、時には魔術も交えて話す。
「ふむ……簡単には信じられないな」
「だよね」
代表としてアベルと話しながら事情を話していく。
他のメンバーとも面識はあるけど、学院にいた頃もこうやってアベル伝手で話すことが多かった気がする。
「俺達も何の証拠もなく上に報告を上げるわけにはいかない。とりあえず転移者、召喚者について記録や資料があれば見せてくれ」
「それならカイさんがいろいろ保管してたはず……」
「ああ、あれならもう渡したぞ」
「なら私は特に持ってないかな」
「そうか。……あの資料だけだと少し証拠として弱いな……ふむ」
アベルは少し考え込む。
「うん、やはり実物を見て報告するのが一番確実だな」
「……え?」
「出るんだろ?推測通りだと三十層で」
「まあこれまで十の倍数の層で召喚されたけど……」
「なら三十層に行って召喚される可能性に賭けて動くのが一番期待できる。今ある資料だけじゃどっちみち足りないからな」
うーん……なる、ほど……?
「でも、そんな簡単なことじゃないよ?強いのは知ってるけど魔物と戦った経験無いでしょ?」
「まあ、俺達だけじゃ難しいのは分かってる。手練れの冒険者でも雇うさ」
「そう……まあ、なら試してみてもいいんじゃない?」
正直、いくら強くても求められる分野が違うからなぁ……ただ強いだけじゃなく、継戦能力も求められる。補給の観点からも迷宮に潜ってすぐ三十層到達は無理だと思うけどなぁ……
「というわけで、レイチェル。頼むぞ」
「……へ?」
「いや、十層、二十層到達実績のあるお前が一番適任だろ。もちろん報酬は出すぞ?これは王国魔導師団からの正式な依頼だからな」
「……うん、ちょっと待ってね?」
私に白羽の矢が立ったかぁ……
いや、三十層はいつか行かなきゃけないし、むしろ手伝ってくれる分私にとっても好都合かもしれないけど……すぐにか……行けるかな……?
「……うん、ちょっと待って欲しい。治療もしなきゃだし、ヒナとベインにも話さなきゃいけないから」
「……そうか、マルクはまだ東か」
「……うん」
「……で、治療は何の治療だ?見た限りだと目立って怪我してる訳じゃなさそうだが」
「味覚がしばらく麻痺しててさ。まあ、とりあえず医者に診てもらう予定だから」
「腕のいい医者を紹介してもいいが……」
「んー……とりあえず診てもらって駄目だったらお願い」
「分かった。じゃあ返事は保留か。喜ばしい返答を貰えることを期待してるよ」
「はは……」
ちょっと私には荷が重いなぁ……
「じゃあ、また」
「ああ」
元上位魔術師クラスのみんなと別れ、一旦ヒナと二人と合流するために歩き出す。
歩き出したのだが……
「よし、ちょっと待て」
「……カイさん?」
「お前、味覚が麻痺ってどういうことだ」
「いや……なんか一ヶ月前くらいからしばらく味が分からなくて……」
「どう考えても!戦ったことが影響してるだろうが!」
「……はい」
「行くぞ」
「えっと……」
「病院にだ!バカタレ!」
「……はい」
半ば強制的に連行され、ギルドに帰ってくるのは夕方過ぎになるのであった。