7-77 旅の結末
片腕で剣を振り、それを会ったばかりの時のようなボロボロの刀で受け止める。
二人とも瀕死で、動きは精彩を欠き、今にも倒れそうだったけど、私はこの闘いが一番美しいと思った。
そして、十合を越えたところでマルクの渾身の一振が放たれる。
桜華は、それを自分の体で受け止めた。
決闘の勝者は、マルクだった。
「……勝負あり!」
勝敗を告げる審判の声が響く。
「桜華!」
「レイ、チェル……はは……こんなに清々しい気分の試合はいつぶりでしょうね……あぁ……」
胴に斜めに迸る傷口から紅い命が零れ落ちる。
誰がどう見たって致命傷だ。
「……レイチェル、すみません。昔のこと、何も手がかりを残せなくて。あの時のことは変身の後遺症でよく覚えてなくて……」
「いいよ、そんなこと……!」
「……泣かないで。もともと、いつかはこうなる運命だったんです。むしろ、こんな形で送り出してくれて嬉しいくらいなんです」
そうだ。もともと桜華が迷宮から召喚された時点でいつかこうなることは決まってた。それを私も、桜華も覚悟していたはずだ。
……でも、流れる涙を止められない。
「……っ、と。ごめんなさい、レイチェル、少し手を貸してもらえますか?最後に、これだけはやっておかないと逝けないので」
「わかった……んっ」
涙を拭い、地面に倒れ込んだ桜華に肩を貸す。
「はぁ……よし。マルク、決闘は賭けでも何でもなく、名誉のためとあなたは言ってくれましたね。……でも、決闘の勝者には何か褒賞があった方がいいでしょう。……今の私に渡せるものなんてこれくらいしか、ないですけど……」
もとのドクロ型に戻った水晶を、今度は一輪の桜の枝と華の簪に形を変えてマルクに手渡す。
「……多分、暴走はしないはずです」
「……ありがたく受け取ろう。これをつけられるくらい髪を伸ばせたら使わせてもらう」
「……無理はしなくていいですよ?」
「いや、使わせてもらうさ」
マルクは簪を丁寧に受け取り、懐に仕舞う。
「ゴフッ……そろそろ、ですかね……」
桜華が血を吐く。本当に限界が近いんだろう。
「それでは……ありがとう、ございました」
私達のお願い通りに、眩しい笑顔を浮かべる。
「あ……」
「……レイ」
「……うん」
夕陽は、沈んでしまった。
あれから治療のためにティアデルフィアに行ってから亜人の集落に帰った。
桜華の遺体はサラサラと魔力の粒になって消えてしまった。召喚されたからかな。
……ちゃんと、弔ってあげたかったな。
「暗い顔してるな」
「うん……腕、治らなかったね」
「まあ仕方ないだろ。流石に無理しすぎた」
「仕方、ないのかな……」
まあ傷口灼いて、代償で生命力も削って、その後さらに無理を重ねたし、むしろ死んでないだけ御の字なのかもしれない。
「ほら、食べないのか?」
「私はいいかな」
「……食欲無いか?」
「いや……なんか……あんまり好きじゃないのかな?味が苦手というか……」
「……本当は?」
「……味がしない。これ、結構濃い味付けだよね?」
「……ああ。亜人特製のソースが使ってあるな」
「……疲れてる、のかな」
「……多分そうだろ。しばらくして治らなかった医者に診せに行こう」
「……だね」
「……残念だな。折角の宴会なのに」
「だねぇ……でもまあ、あれを見れただけでも満足かな」
視線の先には料理を口いっぱいに頬張るヒナとベイン、亜人と人の間で楽しく話しながら食事をする人達、同胞の生還を喜ぶ亜人の人達──
「それも、そうだな」
「だねぇ」
こんなに賑やかな光景を、私達の戦いの成果を、見届けることが出来て満足だ。
「つっかれたぁ……」
借りた部屋のベッドに体を投げ出す。
「……お腹減ったな」
味がしないからって流石に食べなさすぎたな……ちょっとお腹減った。
確か携帯食があったはず……あった。
「んー……やっぱり味しないなぁ」
もそもそする。でもまあなんか食べれたら満足だし味は何でもいいかな。
「……でも、なんか寂しいな」
アルコールとかなら感じられるんだろうか。もしくは激辛とか。
……まあ、ひとまず経過観察かなぁ。
「……寝よっかな」
もう一度ベッドに身を預ける。
今度は心地のいい満腹感と共になんとか眠りに落ちることに成功した。