7-70 小休止
「ん……」
差し込む朝日で目が覚める。
「もう朝か……」
なんというか、寝た気がしない。
思ったより疲れてたのかな……
そんなことを考えながら着替え、腰まで伸びた髪を高めの位置で括る。
「村雨」
未完成の聖遺物に魔力を流し、皮脂や油といった汚れを還元する。
……うん、ほんとに便利だなこれ。外部との親和性が良いだけでこんなことできるんだもんな……まあ流石に聖遺物でしかできない能力だと思う。
でもいつか自力で再現できたらいいなとも思ってる。
魔術って奥が深いなぁ……
「……よし、行くか」
身だしなみを整え、部屋の外に出る。
とりあえず、三人の誰かと合流しようかな。
「──いた。おはよう、ベイン」
「ん?ああレイチェルか。早いな」
「ベインこそ。鍛錬?」
「ああ。と言っても軽い素振りと走り込み、瞑想ぐらいだけどな」
「桜華の教えだね」
「ああ。師匠はいろんなことを教えてくれた。お陰で、ちょっとは強くなったと思う」
「魔物相手と人相手は勝手が違うしそういうところも学べてよかったよね」
「ああ。でもまあ、一回も勝てなかったけどな」
「マルクと二人で組んだときも返り討ちにされてたしね」
「結構ガチでやったんだけどなぁ……」
今となっては過去の思い出だけど、その記憶と経験は今も役に立ってる。
「……私もやっていい?」
「ああ。なんなら軽い模擬戦でもやるか?」
「いいね。眠気覚ましにも丁度いいしちょっとやろっか」
「分かった。……体調は大丈夫か?」
「うん。もう一回同じこと出来るくらいには回復してるよ」
「またぶっ倒れるまでやるのは勘弁してくれよ」
「分かってるよ」
氷で使ってる武器に近い長さと太さの棒を作り、構える。
ベインは自力で石の棒を作り出す。
ベインが風以外の魔術使ってるの久しぶりに見たな。本格的に使ったのは五年前の魔闘大会以来じゃないかな?
「よし。んじゃ、やるか」
「うん。軽めにね」
互いに準備が出来たのを確認し、模擬戦が始まる。
借りた建物の裏のちょっとした広場で武器がぶつかる音が響く。
でも、互いに全力じゃない。多分二十パーセントとかくらいの力でしか動いてない。
本当に体を動かすのが目的の戦いだ。
「あれ、二人とも早いな」
「あ、おはよう。マルク」
「おはよう。体調は?」
「もう大丈夫」
「なら良かった。俺も混ざっていいか?」
「いいぜ。俺ちょっと疲れたから交代しねぇか?」
「分かった。じゃあレイ、やろう」
「うん」
軽い運動にマルクが加わり、そのまま交代制で模擬戦を繰り返していく。
そうしてしばらく武器をぶつけ合い──
「おはよ〜……」
「あ、ヒナ。おはよう」
「うん……おはよう」
「ちょっと座って」
「はーい……」
寝起きのヒナを座らせてボサボサの髪を梳かす。ついでに服装も整える。
「あ、その櫛まだ使ってたんだな」
「ん?ああそうだね。意外と頑丈で長持ちしてるよ」
いつかマルクが作ってくれた櫛について指摘される。
他に買う必要もなかったしなんだかんだ使い続けてたらもうこんな使ってたんだな……
「もう買い替えてるものだと思ってた。髪ゴムなんかも頻繁に買い換えてたし」
「なんか、わざわざ買い替える必要ないかなって。思い入れもあるし」
なんだかんだこれ十年は使い続けてるのか……
「ふぁ〜……んしょっと。ねぇ、模擬戦やってたんでしょ?私もやりたい!」
「ヒナがやると森がなくなるぞ」
「何ぃ!?じゃあやって確かめようよベイン!」
「うおっ!?ちょ待てって!」
この二人はいつもどおりだな……売り言葉に買い言葉で喧嘩が起きる。それでなんだかんだいい方向に流れる。
「──おう。んじゃ次の奇襲でより活躍したほうが勝ちにしよう」
「よし!じゃあ作戦決めよ!」
今回もなんだかんだいい方向にまとまったらしい。
「じゃあ──」
その空気を崩さないように私も話に入っていく。
次の戦い──桜華を助けに行く戦いの作戦会議が始まった。