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7-69 人と付き合うとは

「──お待ちしてました。案内をさせていただきます、ラモルです」


 到着してすぐにラモルさんが出迎えてくれた。


「お疲れ様でした。……本当に、ありがとうございます。仲間を、助けてくれて」

「……いや、まだまだです。仲間が一人、連れていかれましたから」

「……ガーネットさん、ですね」

「……はい」


 捕まってた人は助け出せた。領主と繋がってる証拠も押さえられた。助け出した人達の安全も確保できた。

 最初に目標としてたものは全て達成した。


 でも、勝ったとは思えない。


 桜華は連れ去られ、マルクとベインは傷を負った。治ってるとはいえ負傷したことには変わりない。


 原因を突き詰めれば私の力不足だ。

 もう少し効率的に術式を組めれば気絶することもなかったかもしれないし、『ステータス』でspを割り振って魔力を増やしたり、個人差はあるけど鍛練を積むことで魔力量の上限値を増やすこともできる。

 結局私が対策できた原因なのだ。


 はぁ……まだまだ足りないなぁ……


「あ、いたいた。おーい」

「あれ、ランドさん?」

「おう。リーダーが呼んでるぜ」

「分かりました」


 ザイルガンドさんが呼んでるらしい。多分今回の件についてだろうな。


 三回ノックし、許可を待つ。


「入ってくれ」

「失礼します」

「来てくれたか。まずは、感謝を。同胞を救ってくれた事、元凶の賊を捕らえてくれたこと、我々は主らに大きく助けられた」

「いえ……これは人が冒した犯罪を人が暴いただけです。亜人の皆さんは巻き込まれただけで……まだ、何も返せてないんです」

「それでも、だ。同胞が救われたことには変わりない。それに、ヒトと友好的な関係を結んでる者もいる。これからヒトと関係を結んでいく一歩目としてこれほど喜ばしいことはないだろう」


 関係を持つに至った過程は喜ぶべきことじゃないけど、仲良くなったこと自体は嬉しいことだ。

 隔絶した世界に住んできた人と亜人が関係を結んでいく第一歩目が、政治的な関係じゃなく、個人的な友好関係だったのはこれから二つの種族が付き合っていく上でいい手助けになると思う。


 だって、うわべの面だけ仲良くして裏でバチバチ喧嘩してるとか嫌だからね。出来るなら仲良くしたいもん。


「それで、報酬なのだが……申し訳ない。我々はヒトの通貨あまり持ってなくてな……かき集めて金貨三十枚程度にしかならなかったんだが……」

「え……いや、別に大丈夫です。依頼を受けてやったことじゃないですし……」


 別に今お金には困ってないんだよね……換金してない魔石もあるし。

 それにこれから人と関わりを持つならこの先お金を使う場面は多いはすだ。そのお金は亜人種族のために使ってほしい。


「レイ、いいから何か受け取っとけ」

「え?いや別に……」

「別にお金じゃなくてもいい。例えば今晩の寝床を貸してくれとでも、夜食を用意してほしいでもなんでもいい」

「……じゃあ、それで。すいません、今日は泊まっていこうと思うので部屋を用意して貰ってもいいですか?」

「構わん。むしろその程度でいいのか?」

「あ……えっと……」

「俺達はそれで大丈夫です。それより、捕まってた人達に食事と、出来れば個室を。移動続きで疲れてると思いますから」

「分かった。用意させよう。ランド、空き部屋を手配してやれ」

「了解です。んじゃ、ついてきてくれ」


 ランドさんに案内されるまま各々個室に通される。


 マルクに言われるまま要求を通したけどあれで良かったのかな……というか別に近くに宿取ってあるし本当に何も要らなかったんだけどな……


 そんな風に一人悩む中で、ノックの音が響く。


「あれ、マルク?」

「ああ。すまん、少し話しておきたいことがあってな」


 とりあえず部屋の中に入れて椅子を出す。


「……さっきのこと?」

「ああ。レイ、タダほど怖いものはないんだぞ。これから人と対等に付き合っていこうって話なのに、その一番最初のお前が対等であることを拒否してどうする」

「いや、そんなつもりじゃ……」

「あそこ何も受け取らなければレイはただ亜人に施しをしただけだ。助け合いでもなんでもなく、ただの施しだ。施しというのは少なくとも自分より下の立場の者にすることだろ?自分より下の立場の者に施しをする、施しを受けたから相手より下の立場になる、これはどっちも同じことだ。端から見ればな」

「でも、少なくとも亜人の人達と私達は互いに対等だと思ってるはずだよ。それにあのお金はこれから先必要だと思って受け取らなかっただけだよ」

「それじゃ駄目だ。対等だと思うならなおさら報酬は受けとれ」


 私の精一杯の反論は一言で否定された。


「それにな、少し言い換えて考えてみろ。ギルドが依頼を達成した冒険者に断られたからと言って報酬を渡さなかった。じゃあそれを何も知らない人が見たら?ただ報酬を受け取れなかっただけだ。その時点でギルドは信用されなくなる。報酬を払う能力があって、払う意思があるのに払わなかったという結果が残れば悪印象しか生まない。なんなら、尾ひれがついておかしな噂として流れるかもな。そんなものを抱えさせるなよ」

「うっ……」


 想像がついてしまった。確かにあんまり良くなかったかな……


「たとえ必要じゃなくても受けとることに意味があるんだ。互いのためにな」

「はい……」

「なんなら『金貨はありがたく受けとります。あと、疲れたからぐっすり休みたい、大きい部屋を一人ひとつ用意して欲しい』くらいは言っても良かった。優しさは時として侮辱に繋がる。相手は小さいだけで一つの国となんら変わらない。それくらい堂々としろ」

「分かりました……」


 優しさは時として侮辱に繋がる、か……確かに不用意だったかもしれない。


「とりあえず、それだけ言いに来た。疲れてるところ悪かった。ゆっくり休んでくれ」

「分かった……」


 マルクが出ていった後、ベッドに体を投げ出す。


「ふかふか……はぁ……」


 人と関わるって、難しいんだな……

 そんなことを考えながら、眠りに落ちる。



 部屋のベッドは、これまで誰も使ったことがないんじゃないかというくらいふかふかな良いものだった。

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