7-68 仮住まい
「──はい、確認取れました。受け入れを希望する二十七人、全員受け入れ可能です」
「ありがとうございます」
「いえいえ、もともと閑古鳥が鳴いてるような支部だったので、無駄にスペースはあるんです」
まあ、儲からないだろうし仕方ないだろうなぁ……
冒険者は迷宮なんかの特例を除けば儲けを出す方法が依頼を受けるくらいしかない。だから基本的に受け身な商売で、冒険者一筋で生きていける人はまずいない。
だからみんなこぞって迷宮に行って稼ごうとする。
そして北以外の場所に冒険者は減っていく。
それでもいろんな所に支部が残ってるのは国と貴族のパワーゆえか、それとも別の思惑があるのか。
まあなんにせよ助かってることには変わりないし今は気にしないでいっか。
「それで残りの十一人は……」
「別の場所で受け入れる予定です。あまり人と関わりたくない人達みたいなので」
「……わかりました。ではこちらで受け入れる人達は自力で動けるようになり次第血縁者のもとまで送り届けます」
「よろしくお願いします」
これなら大丈夫そうだな。あとは……
「……では、今から皆さんを亜人の集落まで案内します。実際に集落に移動するのは夜になると思います。人目につきたくないので」
馬車に乗った人達に出発前に軽く連絡をしておく。
かなり手狭ではあるけどなんとか乗れたのでこのまま馬車で開拓地まで行く予定だ。
カイさんが大きめの馬車を用意してくれたのに感謝しよう。
「……レイ、どうする?まとめて連れていってもいいが……」
「それじゃ目立つだろ。夜数人ずつバラバラで運ぶべきじゃねぇか?」
「でもそれだと逆に目立たない?一回でまとめて移動した方がいいと思うな~」
「でもそれだと……」
夜に移動するのはいいとして、一回で行くか何回かバラバラで行くか、議論が起こっていた。
「いや、私がまとめて運ぶよ」
「……大丈夫なの?昨日から全然休めてないし……まだ無理しない方がいいんじゃ……」
「大丈夫だよ。それに十分休んだし……」
「レイ。本当に、大丈夫なんだな?」
「……うん」
今回の一件でみんなに心配をかけたからかな……本当に大丈夫なのかという心配の目が凄い。
本当にもう平気なんだけどな……
「……分かった。じゃあ移動はレイに任せる」
良かった、なんとか許可を貰えた。
「じゃあ集落に運ぶっていう連絡だけいれとこっか。──『始めに意思があった』。『その鼓動はどこまでも遠く』、『遠い宇宙そらの彼方まで』。《魂鼓波動》」
私の言葉を音声情報として、離れた亜人の集落のラモルさんまで駆けていく。
感覚的には留守電に近いかな。ただ音声データを魔力に変換してコーティングし、送信するという電話機の機能を自力でやってるだけで。
ただ──
「……すげぇ。レイチェルが虚空に向かって話しかけてる」
「仕組みは知ってても違和感凄いな……」
「わぁ……」
あれかな、リモート会議を端から見てる人というか、イヤホンしながら電話してる人を見てる気分なんだろうな。
今まで私が作った通声機とかを除けば離れた人に何かを伝えるのは手紙が主流だったんだ。急に離れた人に伝わりますと言って喋り出したらそりゃ怖いよね。
「……よし、とりあえず上手くいったとおもう。あとは返事待ちかな」
「その返事次第で直接集落に飛んでくんだな」
「だね。いい返事が来るのを待とうか」
それから開拓地まで移動しながらお返事を待つこと数時間、いや休憩中に帰ってきてた可能性あるから本当はもうちょっと早く来てたかもしれないけど……ともかく、返事の通信が帰ってきた。
『大丈夫ですよ。馬車ごと移動してきても大丈夫なように広場を空けておきます。ただ、保護希望者の中にヒトがいるらしいですけど、大丈夫ですか?一応もう一度確認をお願いします』
ということだった。
……そう。亜人の集落への保護を希望してる人の中には人も数人いる。
事情を聞いてみたところ一家まとめて奴隷にされて自分以外の家族が死んだ、バラバラにはぐれた。血縁が居ないから仲良くなったり顔見知りのいる方がいい、などなど、ほんとクソみたいな一面が見えた。
だから特に止めることも無く隠れ里組に組み込んだけど……まあ受け入れ元が確認とれって言うなら確認取らないとね。
「ちょっと前まで亜人と人は差別してたんです。今もそういう意識があると思いますけど、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です。あそこよりは、いいので」
「私も……」
「……まあ、行くところもないので」
……うん。大丈夫では無いけどこのまま集落まで連れていくしかないな……
「レイ、時間だ」
「うん。──では、皆さん馬車に乗ってください。出来れば何かに掴まって……はい。では、行きますよ。《空間歪曲・圧縮跳躍》」
夜空を駆けていく。
故郷に帰る人、知人が帰りを待ってる人、身寄りのない人、様々な事情を抱えた人を乗せて。




