7-67 一時の別れ
「桜華!絶対、絶対助けに行くから!」
「……」
桜華は何も言い返さない。当然だ。今は意識があるかも怪しい状態なんだ。
でも、その目には意思が宿ってるような気がした。
はい、待ってます。
そんなふうに、言われた気がした。
「はぁ……ごめん、取り乱した」
「仕方ないだろ、あれは。誰でもああなる。あんなの視たらな」
あれから一回新しく思い出した記憶をみんなにも共有した。
捕まってた人達とも一回合流した。避難誘導してたヒナとも。
「でもまだあそこまで無理して戦う様子はなかった。せいぜいちょっと大きめの刀を振り回すくらいだ」
「やっぱり命令の違いが原因?」
「多分ね。助けろ、じゃなくて殺せって命令されてたらああなってたかも……」
「……まあ、平和ボケしてたんだろ。ここ百年は内乱も差別もなかったしな。んで、欲かいた結果がこれだ」
ベインが腰に着けてた鞄からくしゃくしゃの紙の束を広げる。
「何これ?……あ、これって……」
「ああ。ここの領主と繋がってた証拠だ。ある日森の中に隠れ住んでた賊が金鉱を見つけた。それを領主に持ちかけて独占する計画を立てた」
「見る限り賊の利益は少なさそうだけどな。まあ、こんな契約結んだあたり領主がいいようにやられたんだろうな」
「だね……」
契約内容は人件費削除のために隷属機の簒奪を賊がやること、奴隷の確保、管理も賊がやること、掘り出した金は領主が売りさばき、その利益を五体五で折半すること。
……まあ、領主が中抜きし放題、面倒なところは賊任せというなんとも不公平な契約なんだけど……まあ領主が告発しないというのが一番賊にとってのメリットだろうし釣り合いは取れてるのかな?
まあ領主は領主で金鉱の存在を秘匿して私服を肥やしたいんだろうし告発はしないだろうな。
でも賊に隷属機の管理を任せた結果足がついて私達が来たり騎士団が動いたり、こんな書類を賊に渡してる当たり領主も雑だな。
「とりあえずこれを証拠として騎士団に駆け込めば奴隷問題はなんとかなるんじゃないか?」
「……騎士団動くかな」
「まあ騎士団が領主と癒着してたら取り合ってくれないだろうが……というか確実に癒着してるだろうな。だったらこっちにも小さいが『アンブロシア』の支部がある。依頼が出てることはカイさんから伝わってるだろうし支部の方で保護して貰おう。そうしたら──」
「反応を辿って桜華を助けに、だね」
「ああ」
捕まってた人を安全な場所に送り届けて体勢を立て直し、私達がちゃんと動ける状況を作ってからじゃないと助けには行けないんだ。そうじゃないと、いろんなものを無責任に投げ出すことになる。
ほんと、後から思うとわがままが過ぎたな。
「とりあえず方針は決まったし一回ギルドの支部に行ってみないか?」
「だな。駄目そうなら騎士団に行ってみるしかないが……」
「まあこっちで奴隷騒ぎが公になってない当たり駄目そうだけどね~」
「だな」
実際私達がラタトスクで遭遇して、こっちに来るまで何も分かってない当たり調査してるか怪しい。というかしてないんだろう。
「……皆さん、今から街に向かって移動します。騎士団、もしくはギルド『アンブロシア』への保護を求める方、そうじゃない方がいると思いますが、ひとまず街まで移動します。人の施設への保護を求めない方は改めて違う場所に移動しますので安心してください。歩けない方、怪我をされてる方は──」
マルクが捕まってた人に今後の動きを話していく。こういう演説みたいなのは慣れてるんだろうか。
「──では、行きましょう。……はぁ。レイ、終わったぞ」
「うん。ありがとう」
「多分休憩を挟みつつになるから朝まではかかるぞ。体調とか大丈夫か?」
「私はもう平気だよ。それよりマルクは?傷治したばっかりだし……」
「俺は軽い斬り傷ばっかりだったからな。それより……」
「ん?なんだよ」
「いや、お前の方がバッサリ斬られてて痛そうだったなって」
「ああ……まあ傷は塞がってるしあのマズイ魔術薬も飲んだ。そのうち治るだろ」
「そんなものか」
「そんなもんだよ」
……意外と元気だな。
「とまあ、こんなもんだ。レイはまず自分の体調を気にしてくれ。今回一番頑張ったのはレイなんだから」
「……ありがとう」
色々思うところはある。他にやりたいことも、言いたいこともある。
でも今は、この優しさを受け取っておこう。




