2-18 二度目の実戦/前日
杖を買ってから二週間、丁度学院に来て一ヶ月が経った。
「明日もう一回、実戦やってみましょうか。みんな魔術は大体完成してるようですし」
ミシェルから再戦の宣告があった。
「いいですね。そろそろ一回試してみたいと思ってました」
「私も!」
マルクとヒナは賛同した。
私としても悪くない提案なのだが……まだ正直実戦に使えるほどの完成度があるかといえばそうではなかった。
しかし二人が賛同してるので断りづらい。
「レイチェルはどうする?」
「どうしよ……まだあの魔術、正直不安なんだよね」
マルクに心の内を正直に打ち明ける。
「レイチェルさんの目指す魔術は二人の物と比べても少し複雑ですからね。でも、だからこそ一度試すことで完成に近づくかもしれませんよ?」
返事はマルクからではなくミシェルからだった。
「それに、ここはもとからそういう場です。なんでもためして挑戦して、失敗を積み重ねて自分を磨く場です。
先生としては一度試してみていいと思いますよ?
危なくなったら先生が止めますし」
う〜ん、ミシェルの言う通りな気がする。
しかし自分の中で「まだ止めておいたほうが良いんじゃないか」という囁きが決断を鈍らせる。
前世含め二十年生きてきて自分は本番に強いタイプではない、必勝の策を持って臨まなければ安心できない性格というのは理解している。
いや、何考えてんだ。
今世では前世みたいに妥協しないって決めたじゃないか。
理想を追いかけるって、夢を実現するって決めたじゃないか。
そのために学院に入学する条件だって呑んだじゃないか。
学院に来る前に覚悟は決めただろう?
こんな小さな挑戦の場で躊躇って成長できるわけがない。
それに学校とはもとから知識を得て、失敗を積み重ね、自分の成功を作る場だ。
安心して失敗して良いんだ。
決めた。やろう。
「……やります」
「決まりね、じゃあ明日、運動場集合で。ルールは前回と同じで、時間制限だけ決めましょう。前回はヒナさんがどうしようもなくなったから中止したので。
そうですね、それじゃあ制限時間は1時間というルールでやりましょう」
「はい!」
「はい」
「わかりました」
それぞれが決意を決め教室から去っていった。
やるべきことは明日に備えてでき限りのことをすること。
しかしできることはそう多くない。
今から魔術の練習をしたって一ヶ月かけて安定しなかったものが安定させられるようになる訳が無い。
となると、やるべき事は即効性のある行動──そう、『祈り』でステータスを上げるのだ。
この一ヶ月、祈りには行かなかったのでspは大量にある。
マリーの話だと死んだ生物の魂という話だったが普通に生活するだけでも意外と溜まるものだ。
多分虫殺したりとか食事のとき肉類に付いてたりするのだろう。
まあそんなことは今はどうでもいい。
学院にある礼拝堂に向かって足を進める。
学院の礼拝堂はシスターが住み込みで働いているのでいつでもレベルアップができる。
spを放置すると体調を悪くするとマリーから聞いているので生徒の体調管理の一環なんだろう。
ありがたいことこの上ない。
といっても一ヶ月放置して支障をきたしてないということは意外とキャパは大きいのかもしれない。
歩いて五分ほどで到着した。
祈りを上げてる最中なので静かに扉を開け音を立てないようベンチに座る。
シスターが祝詞をあげてる間に祈りを捧げる。
まあこの世界で五年過ごして信仰心の欠片もないのはどうかと思うが。
まあ信仰心が無くても利用させてくれるなら利用しない手はない。ありがたく恩恵を授かろう。
さて、なんのステータスを伸ばそうか、もちろん魔力にも振りたいのだがルールは鬼ごっこだ。体力や速度も要求されるだろう。
悩んだ末、魔力に全て振る。
私には血属性魔術によって筋力や速度をバフできる。
魔力を増やしてそのバフを掛け続けたほうがいいと判断した。
それに試したい秘策もある。
「……『ステータス』」
小声でステータス魔術を発動し、変化を確認する。
二週間前、武器屋で測定した時はLv19だっかがどれくらい伸びたかな
《筋力:Lv8》《体力:Lv9》《技量:Lv14》《速度:Lv9》《魔力:Lv22》
二週間前からLvが3上昇していた。
技量と速度も少しだけ伸びてたのは幸運だった。
確認を終え、礼拝堂から出る。
今の時間は午後2時を過ぎたところだ。
さて、これからどうしようか。
何もしないという手はない。焼け石に水でも何かしなければ。
考えた末、結局魔術の練習をすることに決める。
時刻は午後八時半、夕食とシャワーを済ませ寝巻きでベッドにいる。
今日ばかりは明日に備え日課の読書も参加せず寝ることにした。
興奮と緊張で寝れないかもしれないしな。
明かりを消し3人全員寝る姿勢に入る。
「おやすみ」
「おやすみ。明日は全力でやろう」
「うん。がんばろう」
「負けないからね!」
時間が早いからかヒナのテンションが高い。今から寝るんだぞ?寝れるのか?
「うん、私も負けないから」
「こっちこそ」
ヒナの宣言に私とマルクが乗っかる。
そうだ。もとよりここに居る三人とも負ける気などない。他人の心配なんてしてる場合じゃないのだ。
勝つ気で、全員、今日一日備えたのだ。
二人の戦意に影響されたのか私も戦意が湧き上がってくるのを感じる。
明日は、絶対勝つ。
必勝を掲げ、意識を眠りの中に落とす。