7-59 決行
あれから話し合って決めた作戦は大まかに三つ。
一つ目、通信術式の作動と同時に追跡用の魔術を放ち、それを私が空間跳躍の連続使用で追いかける。
追跡用の魔術は連絡用に使ってた鳩でも飛ばすことにした。原理が通常の飛行とは違うし、通信術式の移動速度に合わせて移動するからありえない速度で飛ぶ鳩が誕生するけど……まあそこは別にいいか。
二つ目、到着後私は多分ダウンするので四人がさらわれた人と亜人の救出を行う。
具体的に何人いるかはわからないけど拡張収納にかなりの食料が入ってる。
三、四十人程度なら三色きっちり食べて二週間は持つ量だ。少なくとも飢えることはないだろう。
そして三つ目、人間は騎士団に、亜人は隠れ里に移動する。
ここの避難先は迷ったけどそれぞれの住処に帰るのが一番いいと思った。
いろいろ面倒くさい問題が出てくるだろうけど、大体はギルドの名前と依頼を盾に押し通せるだろう。
そもそも奴隷自体がゴリゴリのレッドゾーンなわけで、亜人がどうとかの調査は後回しになるだろうし、そのタイムラグを使って里を移すなり人と和解する策を練るなりして対策するしかない。
とりあえず作戦の概要はこんな感じだ。
ギルドから借りてきた馬車と馬はバラして拡張収納に入れてあるから組み立てられれば足は気にしなくて良くなる。旅の途中で仕組みを視といて良かったよほんと。
イレギュラーとか新しい問題が出てきたら個々の判断で動くか話し合って解決策を練る。これを作戦に組み込んでも大丈夫と思えるくらいには自由度が高い作戦だ。
……まあ、行き当たりばったりとか、出たとこ勝負とか言われるとその通りとしか言えないんだけど。
でもまあこっちは攻撃する側、それも奇襲に近い。
これだけ条件が良ければみんなならなんとかしてくれるだろう。
というわけで行動目標だけ決めてどうクリアするかは個人に任せる、なんて作戦を立てて約二十時間後、決行予定の時刻になる。
「準備はいい?」
「ああ」
「いつでも」
「いけるよ〜」
「大丈夫です」
四人とも準備はできてるらしい。
これなら安心して任せられる。
魔術薬を先に一本飲み、合図する。
「それじゃ、お願いします」
「分かりました。では──『始めに意思があった』。『その鼓動はどこまでも遠く』、『遠い宇宙の彼方まで』。《魂鼓波動》」
「っ!」
今、ラモルさんから情報が発信された。そしてそれと同時に追尾術式も起動する。
追尾術式とのリンクは成功済み。後は追尾術式の通った軌跡をなぞるだけだ。
「──《空間把握・四重展開》、《空間圧縮・圧縮跳躍》」
より精密な観測の為に四重展開を使い、演算を行う。
……急げ。こうやって組み立ててる間にも術式は前に進んでいくんだ。置いていかれるぞ。
今は消耗も何も気にしなくていい。私がやることはみんなを無事に送り届けることだけ。
何も考えなくていい……反射で組み立てていけ……!
「っ──!」
連続的な魔術の使用によって魔力がみるみる減っていく。
胃袋がひっくり返りそうな感覚に襲われる……が、今は堪える。
「い、け──っ!」
魔術の行使を繰り返すこと約四十回、目的地へ辿り着く。
「あ、と……お願い……」
「任せてください。マルク」
「ああ」
着いた瞬間膝から崩れ落ち、背を地面に着けて横になる。
あー気持ち悪い。ほんと魔術薬飲んでおいてよかった。
もう一歩も動けないな……まあ最初からこの予定だったし後はみんなが何とかしてくれるだろ。
あー……なん、か……眠い──
ここで意識が落ちる。全身から力が抜け、誰でも簡単に攫えるくらい無防備になる。
そこに近づく足音が、一つ。