7-58 解析と解答
「そうですか……あの子がそんな……」
「はい。大剣振り回してましたよ」
実際前衛として戦ってたし、食うに困るとか病気にかかってるとかそういう問題は無いんだろう。
いやむしろ明日の朝食に困って病に伏してあの戦い様だったらびっくりする。
「私、ベンを探すために連絡係に立候補したんです。幸い適正もありましたし、仕事に困ることはなかったんですけど……ベンのことは何も分からなくて……」
「そうだったんですね……」
この未開拓の森以外にも集落はあるのかもしれない。
けど、ここから大きく離れた北の街まで移動してたとなるとやっぱり分からなかったんだろう。
「それで、その通信術式のことなんですが……」
「あぁすみません!今日はそっちを聞きに来たんですよね、私ったらもう……」
「いえいえ。それで、どんな術式か見せてもらうことはできますか?」
ひとしきり話したタイミングでマルクが本題に移る。
「はい、長老から許可は貰ってます。こんな術式なんですけど……」
ラモルさんは丸めてあった紙を広げ、通信術式の魔方陣を見せてくれる。
「ん、んん?」
「時間かかりそうだな。解説お願いしてもいいですか?」
「ええ。私の時は本当に時間がかかりましたので……私にできることでしたら、なんでも」
ラモルさんに解説を貰いつつ、手分けして解読することになった。
「ええっと……つまりここが"発信する対象を選択する術式"で、こっちが"発信する情報を入力する術式"?」
「そうですね」
「とするとこっちが"盗聴対策"でこれが"情報の保護"か」
「はい。……皆様凄いですね、こんな短時間で……」
「いえ、ラモルさんが解説してくれたからです。我々だけではここまで簡単にはいかなかったと思います」
あれから三時間ほど、なんとか通信術式の解読に成功する。
いやほんと、解説があるかないかで難易度が段違いだな……
「それに、ほら」
「え、ええ?ん?あれ違う……」
「おいこれどうなってるんだ?ここの二つの式繋がってるようには見えないんだが」
「だからそこは──」
ヒナとベインはまだ理解が追い付いてないらしい。
あと桜華は完全に専門外なのでお茶を飲んで待ってる。
「それで、どうするんだ?聞いた話しでも術式を見ても通信は発信と受信で互いに協力があって成り立つものだ。受信側が応答できない場合は通信が成立しない。これを何とかするために術式を解読してた訳なんだが、何か思いついたか?すまんが俺はちょっと無理そうだ」
「一つだけ思いついたかな。実現できるかはわかんないけど」
見てた感じ一つだけ思いついた。
多分実現できるはず……
「ほらここ、この術式って情報を魔力で保護して送ってるよね。それを盗聴対策の術式がさらに守ってる感じ」
「そうだな」
私の通声機はパスをつないで、そこで情報をやり取りする形だけど、こっちは最初にまとめて情報を投げつけるような……山びこのような感じだ。
「でもこの盗聴対策の術式ってあくまで送ってる情報を守ってるだけで、情報を送る軌道を読めないようにしてるとかそういう訳じゃないんだよね。逆探知対策とかも無さそうだしさ、情報を送る軌道を物理的な何かが追いかけるようにして情報を送る過程を可視化すれば追いかけられるんじゃないかな?」
「なるほど……?要するに後ろをついていくわけだな?」
「そういうこと。これなら相手が応答できなくても居場所が分かる」
移動した後を追いかけるでも、魔力反応に追尾するでも、なんでもいいから追いかけるように何かを放てばそれを見て追跡できる。
なんなら魔力反応自体を視続けて追いかけてもいい。
「でもそれ追い付けるのか?相当なスピードだと思うが……」
「そこは私が頑張るよ。ただまあ着いた後動けるかは分からないから場合によっては四人に任せることになるけど」
「そこは任せてくれよ。何とかしてみせる」
「ありがとう。それじゃ決行は明日の夜で。人目は避けたいしね」
「だな」
とりあえず居場所の特定は解決しそうだな。
「皆様凄いですね……ほんの数時間で解決しちゃんなんて……」
「まだまだこれからですよ。まだ何も解決してません」
「いえ……ありがとうございます。我々の為にこんな……」
「気にしないでください。感謝されるようなことじゃないですから」
まだこれは人間の冒した罪を解決しに行くだけだ。感謝されるようなことじゃない。
「……ありがとうございます。仲間を、お願いします」
「……わかりました」
それでもラモルさんはありがとうと言ってくれた。
なら、それに応えなくちゃいけない。
その決意を胸に、具体的な作戦を練っていく。