7-57 生き別れ
「と、いうわけで……なんとか亜人との協力関係は結ぶことができました」
「よかったぁ……」
一時に森に入ってから数時間後、日も昇ろうかという時間に四人と合流した。
「結局全部話したんだな?」
「うん。信用してもらうにはそれが一番いいかなって」
文字通り知ってることは全部話した。
奴隷問題、迷宮で起きてること、異常気象など、全部。
本当は部外秘の情報なんだろうけど……隠して疑われて協力関係を結べずに手がかりも得られない、これは避けたかったからな……帰ったらカイさんに謝ろう。
「まあ上手くいったんならなんでもいいだろ。んで、次の接触は?」
「明日の夜一時。昼は人目につくからこれからも夜に動くことになりそう」
「完全に昼夜逆転してるね……」
「仕方ないよ。まだ昼間に堂々と動くわけにはいかないんだから」
「……やっぱり人目につくとまずいんですね」
「まあ、そうだね……私が知ってる歴史だと亜人の人数が減って、姿を消したことで問題が無くなる自然消滅だったから多分差別意識自体は何も変わってないんだよね……」
今亜人差別を止めようとか、亜人の権利を保証しようとかそういう動きがないのは結局のところ差別する相手がいなくなったことによって問題ごと無くなったからだ。
最低限隠れてる亜人を積極的に探しだそうとしたり、見つけたとしてもその情報を広めないって暗黙の了解はあるけど、それも法律で決められてる訳じゃないし、差別を止める法律が作られてるわけでもない。
今騎士団が動いてるのは法律に抵触してる奴隷を取り締まるためであって、亜人の保護が目的じゃない。保護されてるのはついでなのだ。
だから不用意に動くわけなはいかないのだ。
「そう、ですか……」
「……とりあえず馬車で横になっとけ。疲れてるだろ。宿までは俺が動かすから寝とけ」
「……ごめん、ありがとう」
マルクに促され眠気に任せて横になる。
いろいろと考えなきゃいけないこと、やらなきゃいけないことがあってしばらくは目が冴えてたけど、馬車の揺れに身を任せてらうちにいつの間にか眠りに落ちていた。
「よっ、昨日ぶりだな」
「こんばんは、ランドさん」
「おう。そいつらが仲間か?」
「はい。一応顔は隠してますけど……」
下手に刺激すると良くない気がしたのでローブとフードで外見から人って分からないようにしてる。
それと一応名前が和風で怪しまれるって理由で桜華にはザイルガンドさん以外にはガーネットと名乗ってもらうようになってる。
……例の伝承はいろいろ納得できないけど、調べるのは今じゃない。
「結局怪しいのは変わらないんですけどね」
「まあヒト丸出しで行くよりはいいだろ。よし、それじゃ行くぞ。長老が待ってる」
ランドさんに案内され、集落に向かう。
「こんばんは、ザイルガンドさん」
「夜遅くにすまないな、レイチェル。主らがレイチェルの言っていた仲間か」
「はい。マルク・ヴァルスといいます。よろしくお願いします」
「貴族か?」
「北のギルドの運営を任されている家の者です」
「そうか。政治的な支援を望めると考えてもいいのか?」
「私にできることでしたら」
「そうか。して、主らは?」
「ひ、ヒナといいます……」
「ベインです」
「龍城桜華といいます。よろしくお願いします」
「ふむ、主が……」
「ザイルガンドさん」
まだ桜華には伝承のことを話してない。
聞いたら何か思い出すかもしれないけど……聞いた限りあまりいい記憶だと思えない。
……まだ思い出す必要がないなら、その方がきっといいはずだ。
「……わかった。それでは早速本題に移ろう。ラモル、入ってこい」
「はい」
ザイルガンドさんに呼ばれ、一人の女性が入ってくる。
身長は私と同じくらい、特徴は──もしかして……
「お初にお目にかかります。この集落の通信係を担当しているラモルといいます」
「はじめまして……って、もしかして……突然すみません、お知り合いにベンという人はいませんか?」
「え……?なん、で……知って……あの子は!あの子は今どこにいるんですか!?」
「北の『ラタトスク』という街で冒険者をやってます。あの、もしかして……」
「はい……ベンの母親です。十年ほど前集落を合併する移転作業中にヒトに見つかって逃げてる途中ではぐれたんです……よかった……!」
「レイ、なんで……ってなるほど、手か」
「うん」
ラモルさんの手がベンさんと同じモグラの特徴を持ってたから血縁の可能性があるかもと思ったけど、ビンゴだったらしい。
身長も遺伝するらしいし、どことなく面影があることとパッと見だけど結構な高齢に見えたからまさかと思ったけど……本当にあってるとは思わなかった。
「ふむ、今日は通信術式のことはいい。息子の話を聞いてこい」
「でも……」
「いい。構わんな?」
「はい。私の知ってることでよければ」
「十分だろう。儂は席を外す。ランド、任せたぞ」
「分かりました」
今日話すはずだった内容が遠く離れた話題に変わる。
けどまあ、そうするべきだと思う。
「息子は、ベンは元気にしてますか?」
「はい。ベンさんは──」
知ってることを話す。
突発的にだけど話し合いや協議の場から、安否の確認の場になった。
でもまあ、反対する人はいなかった。
そうするべき。それがこの場の総意だった。