7-56 締結
「ふむ……思ったより深刻な状況なのかもしれんな」
今私が持ってる情報を全部伝えた。
部外秘の情報もあったけど、多分大丈夫だろう。
というか仕方がなかった。今は信用されるのが最優先なんだ。
ここで亜人の人達と協力関係を結べなかったら例の奴隷組織に襲われたりした時、私達が関われなくなる。更に言うと、守れなくなる。
奴隷問題だけじゃない。異常気象に関してもここで情報を共有しておかないと社会的に立場の危ういこの人達が危なくなる。
ここで協力関係を結べれば色々と助けやすくなる。
……何より、桜華の願いでもある。亜人全体の安全、権利の確保の手助けはしておきたい。
「……長老」
「ああ。レイチェル、お前をこの亜人集落の長として信頼しよう」
「……え?」
信用ではなく信頼?
それは対等な取引相手として認めるよりも……より距離の近い友人のような言い回しじゃないか?
「儂は少なくとも主に敵意や害意があるようには見えなかった。それだけで十分だろう」
「……そう、言ってくれるとありがたいです」
正直もっと時間がかかると思ってた。
むしろ拍子抜けな気分だけど……まあ、話の分かる人で良かったと思っておこう。
「して、主の気にしてる奴隷組織についてなんだが……さらわれた者と連絡を取れる可能性のある者がいる」
「本当ですか!?」
運が良い。ほとんど手詰まりだったのに手がかりが見えてきた。
「亜人の集落はここ一つだけではない。ヒトに見つかって一息に全滅する可能性があるから分散して隠れてるのだ。そのバラバラの集落の間で連絡を取れる魔術が亜人には伝わってるのだ」
遠隔での連絡……私が作るより前に亜人の間では確立してたんだ……
「ということはその魔術で攫われた人と連絡をとれるんですか?」
「そういうことだ。ただ、こちらから呼び掛けたとしても応答できるかはあちらの状況による。それにあまり精度も良くない。正確な居場所を聞き出せるかは運次第だ」
「なるほど……」
どういうものかは分からないけど、発声によってやり取りする仕組みなら怪しまれる。
かなり分が悪いな……
「すみません、どういう魔術か教えて貰うことはできますか?もしかしたら工夫次第でもっと安全に居場所を特定できるかも」
「ふむ……よかろう。使える者と便宜を計ろう。ただ……今日はもう遅い、明日以降でも遅くはあるまい」
「あー……」
確かにもうかなり遅い。三時は回ってるだろうな。
「泊まっていくか?うちでよければ寝床くらいなら借せるが……」
「……いえ、大丈夫です。外で仲間が待ってるはずなので今日は一回帰らせて貰います」
「だな。今日はいかんせん急なことだったからもてなしもできなかったが、次は寝床と食事くらいは用意させる」
「いえ、急に呼び掛けたのはこっちなので……それに近くに宿を取ってあるので大丈夫です。外の人間があまり長く滞在するのはあまり良くないですよね?」
「……すまんな。儂の一存で対応を変えることはできるが、根付いた意識や恐怖は取り除けないのだ……恩に着る」
ランドさんも言ってたけどやっぱり集落内で意見が割れてるんだな……
まあ過去にあったことを考えれば仕方ないことなんだろう。私も当事者として、これからの亜人と人間の関係を気付く最初の一歩として気を引き締めないとな……
「ランド、見送ってやれ」
「分かりました」
「ありがとうございます。……あ、最後に一つ質問いいですか?」
「どうした?」
「まだ名前を聞いてなかったと思うので」
「あぁ……これは失礼をした。見定めるとか上から目線で礼を欠いたな……。儂の名前はザイルガンド、これからよろしく頼む。レイチェル」
「こちらこそ、ザイルガンドさん」
最後に友好の証として握手を交わし、ランドさんに見送られながら隠れ里を後にする。
ひとまず無事に亜人との協力関係は結ぶことができた。