7-55 会合
ライオンののうなたてがみの生えた老人のところまで案内される。
多分この人がこの集落のリーダーなんだろう。
……多分何人か外で待機してるな。まあ無防備な状態でリーダーに会わせるわけないし当たり前か。
「……初めまして、レイチェルといいます。……まずは謝罪をさせてください。急に接触を計ったこと、その結果ご迷惑をかけたこと、申し訳なく思います。……ごめんなさい」
「……よい。主がやらずともいつかこうなっていただろう。むしろ感謝すべきなのかもしれんな」
謝ったはずなのになぜか感謝された。
「こうやって隠れ生きることもいつかは限界が来る。限界を迎えてから接触するより、まだ余裕がある時に主のようなヒトに出会えたのは僥倖と言えるやもしれん。ランドがここに通したということは少なくとも敵意は無いのだろう」
「俺には歩み寄り、対等に接する気持ちがあるように見えました」
「そうか……しかし我々はそう簡単に信用する訳にはいかんのだ。過去に我々とヒトとの間に何があったかは、知っているだろう」
「……はい」
私達がやった事じゃないとはいえ、差別があったという過去は変えられないし、互いに差別意識や恨みという感情を持っている人が多いということは事実だろう。
「故に、主の本質を見極める必要がある」
「……具体的には、どのように?」
「幾つか問答をさせて貰う。よいな?」
「はい」
問答……何を聞かれるんだろう。答えられることならいいけど……
「まずは主のことが知りたい。年端もいかぬ少女のように見えるが、今幾つだ?」
年齢……確か……
「十五です」
まだ今年は誕生日来てないから十五のはず。
「そんな歳だったのかお前……ギリギリ成人くらいじゃねぇか」
「そうですね。春に学院を卒業したばっかりです」
「ふむ……なおさらなぜこの里を訪ねてきたのか気になるな」
「……諸事情あって奴隷を扱う組織を追ってるんです」
「その諸事情、聞いても?」
「所属してるギルドが関わってる……というのもあるんですけど、やっぱり一番大きいのは友人の頼み、ってことだと思います」
桜華が気になってたから追ってきたんだ。ギルドから依頼がかかったのはオマケにすぎない。
「友人……その友人は亜人か?」
「っ……よく分かりましたね」
「二択だ。わざわざ亜人の隠れ里を見つけに来るような人間は、奴隷を扱う競合相手を潰したいか、単純に心配してかの二択だと踏んだのだ。まあ、主が居る時点で後者なのは大体分かっておったがな。その友人の名前を聞いてもいいか?」
「龍城桜華という人です。訳あって遠い昔からこの時代に来てます」
「……長老」
「ああ。レイチェル、そのタツキオウカがどんな人物か、知ってるか?」
「……?誠実な人って印象です。少なくとも一ヶ月ほど一緒に旅をしましたけど変な人には見えませんでした」
「ふむ……この里、というか亜人全体に言い伝えが残っててな、亜人を滅ぼしかけた厄災、それがタツキオウカという名前に紐づいた伝承だ」
「……え?」
ちょっと待って欲しい。なんだそれ。
確かに不明瞭なところもある。それらしい名称で呼ばれた場面もあった。
けど亜人を滅ぼしかけた?そんな話知らない。
「詳しいことは分からない。ただ、タツキオウカと厄災の獣という名前だけが残ってる。これは亜人なら誰でも知っている話だ。だな?ランド」
「はい。俺も、俺の息子も知ってる話ですね」
「そういうことだ。その名前は出さない方がいいだろう。……ただ、どうも主の意見と噛み違う。この伝承も古いものだ、そこも見極めねばなるまい。まあ、そもそもなぜ今居るのか、という話になるのだがな」
「それは──」
今迷宮で起きてることを説明する。
与太話と無視されてもいいから一回耳に入れておいた方がいいからね。
「……ふむ。主とはもう少し話をせねばならぬな。ランド、人払いを頼む」
「分かりました」
「……いいんですか?」
「構わん。儂が襲われるより不用意にこの情報を広める方がまずい。まあランドは残すがな。それより詳しく話せ。根拠の無い推測でも構わん。儂はその話の方が重要に感じるのだ。差別云々よりな」
「……わかりました」
今私が知ってる情報を話していく。
……今夜は長くなりそうだ。