7-54 接触
ガサ、ガサ、と音を立てて森の中を進んでいく。
人目につくので明かりは持ってない。目立つ白髪も帽子を被り、コートの中に入れて隠している。
足跡も目立たないよう隠しながら歩いてきた。帰るための目印もつけてない。
敵意がないことを示すために刀も、村雨も、拡張収納も持ってきてない。
警戒されるから魔術も《暗視》だけ、《空間把握》も使ってない。
さて、あとは相手の出方次第に──
「そこで止まれ」
「!」
「上着を脱ぎ、膝をついて両手を上げろ。返事はするな」
接触してきた……!
ギリギリと音が聞こえてくる。多分弓を構えてるんだろう。
とりあえずここは指示に従おう。
「……よい。ではいくつか質問をさせてもらおう。こちらが質問したときのみ返事を許可する。それ以外で喋れば撃つ。いいな?」
小さく頷き声を出さないよう返事をする。多分大声を出されたりして居場所がバレるのを警戒してるんだろう。
「では一つ目、あの手紙はお前が書いたのか?」
「はい」
「あの鳥は?」
「私が作りました」
「我々と敵対するつもりがないというのは?」
「本当です。私達は亜人の皆さんと対立するつもりはありません」
「どうやって隠れ里を見つけた?」
「魔術で見つけました」
「では奴隷にされたという亜人については?」
「北の『ラタトスク』という街の騎士団が保護していると聞いてます」
「同胞を奴隷にしたという組織については?」
「まだ詳しいことはなにも……その組織の調査のために来たんです」
ギリギリと弓を引く音が大きくなる。
多分こうやって話してるなかでも根底に人に対する恨みとかがアあるんだろうな……できる限り刺激しないよう返事してるつもりだけど、難しいか……?
「はぁ……おい、弓を下ろせ」
「え……」
「合格だ。案内してやる」
「どうして……」
近くの茂みから亜人の男性が現れる。
凄い厳しそうな雰囲気だったのになんで急に……
「実はな、森に入ったところから見てたんだ。明かりもつけず、足跡も見えにくいよう工夫して歩いて、極めつけは監視の存在に気付かなかったことだ。里を見つけるほどの魔術を使えるお前が気付かないはずがない。魔術を使ってない証拠だ」
見られてたのか……でもまあ、結果的にいい方向に転んだみたいで良かった。
「俺はランド。お前は?」
「レイチェルです」
「レイチェル、すまなかったな。こんな試すようなことして」
「仕方ないと思います。……過去に、何があったのかは私も知ってますから」
「そうか……おい!お前らも出てこい!」
「……チッ」
「はぁ~……すまんな、まだあいつらには苦手意識があるみたいでな」
「急に手を取り合えと言われても難しいでしょうし、仕方ないと思います。むしろ急なコンタクトだったのに受け入れて貰えて、ビックリしてるくらいです。あ、仲間に連絡してもいいですか?」
「構わない。心配してるだろうし知らせてやれ」
隠れ里と同じ要領で鳩を飛ばして手紙を送る。
通声機は変に警戒されるかもしれないから使わない。
「……ほんとはこんな試験もナシで通したかったんだけどな……里の反対派を納得させるのに必要だったんだ」
「そんなに外の人と協力的な人が多いんですか?」
「協力的というか……そろそろ限界なんだよ。いい加減森の恵みだけで生きていくのも難しいんだ。最近農作も狩りも上手くいかなくなってきたからな」
「あ……」
……異常気象の影響だ。
私がもたもたしてるから……!
「ま、要するに変化しなきゃいけない時期になったんだ。それに賛成するか、反対するか、その派閥が争ったのが今回の一件だ。……っと、見えてきたぞ」
夜闇で包み隠された森の中で、明るく輝くものが見える。
わざわざつけたのか、普段からそうなのかは分からないけど様々な場所にランタンで明かりが灯されていた。
「こんな夜遅くに悪いがもう少し付き合ってもらう。うちのリーダーが待ってるんでな」
「分かりました」
人との接触なんて一大事だし直接あって話したいんだろう。
ここまでのはあくまで危険かどうかを確かめるためのものにすぎない。
さて、ここからが本番だぞ……