7-53 ファーストコンタクト
翌日早朝、馬車を使ってまだ開拓途中の場所、巨大な木々が生い茂る森の前まで来た。
「珍しいな、こんなとこに人が来るなんてな。領主の査察かなんかか?」
「同じようなものです。ただ、領主からではありませんけど」
「だろうな。ギルドマークを堂々を張り出すなんてただ事じゃない。何が目的だ?」
「申し訳ないですが話せない内容です。皆様にご迷惑はかけませんので、ご安心ください」
流石貴族出身、慣れてるな。
とはいえ、それでも不信の目は消せない。
外部から、それも北に本拠地を置くギルドが大々的に名前を出して訪ねてきたんだ。簡単に信用されるはずがない。
まあ、仕方ないのかな……
「行こう。とりあえず仕事の邪魔をしなければ歩きまわってもいいって許可が取れた」
「ありがとう。それじゃ、一番怪しいところから行こうか」
許可を取れたので馬車で更に東に、森の眼の前まで移動する。
「マルク」
「ああ」
不完全な共術を、二人で発動させる。
「「──《共鳴知覚/天眼・天啓》」」
もちろん収集する情報は絞る。
獲得する情報は生命反応、それも人形のものに絞って。
違う、これじゃない……これも違う……
森の表層の情報じゃない、もっと奥深くの、獣の特徴を備えた人形の知生体……
違う、違う、違う、違う──いた。
「……見つけた」
森の深奥、数多くの擬装を経た道程の先に、一つの集落があった。
そこで生活してる痕跡も、亜人の人も見える。
「……どう、するんですか?」
「……まずは遠距離でコミュニケーションを取ってみようと思う。下手に近づいて集落の場所をバラすようなことはしたくないしね」
無理に近づいて隠れてる場所を広めてしまうのは侵略者と何も変わらない。
直接手を下すか、間接的なものになるか、それだけだ。
「でも、どうするんですか?遠距離でと言っても……」
「ちょっと待ってね……よし、こんな感じかな」
「これは……鳩?」
「うん。これに手紙をくくりつけて飛ばしてみようと思う。返事があればいいし、無ければ無理に近づかない。これでいい?」
「……はい」
これ以上の対応は今は難しい。
正直直接的な接触を避けるだけでも方法が限られるし、その上で敵意がないことを示さなければいけない。
原理自体は《飛翔氷剣》と同じだ。けど今回は敵意がないこがをパッと見で分かるように形を鳩に変えてある。
それに森の中なら鳥が飛んでても不審がられないはずだ。
手紙の内容は……まず敵意がないこと、接触したいこと、外で起きてる奴隷騒動の調査できたこと……それを全部書くとこんな感じかな。
……よし。
「行け」
氷の鳩を飛ばす。
後は相手の出方次第になるかな……まあ、何にせよここで断られれば私達にできることはない。
断られれば、大人しく帰るだけだ。
さて、返事は帰ってくるかな……
「──レイ!」
「うん!帰ってきた!」
あれから数時間後、昼食を摂り様子を見に帰ってきたタイミングで鳩の返事が来た。
「内容は!?」
「ちょっと待ってね……」
『このような形での返事になること、申し訳なく思う。しかし我々も警戒しなければならないのだ。
一ヶ月ほど前、集落が一つ潰されたのだ。それを知っていてヒトと何の警戒もなく関われるほど我々は無知ではない。
しかし本当に奴隷にされた同胞を助けるため、奴隷にされることを防ぐために来たというなら会ってもいい。
だが、主導権はこちらが握らせて貰う。
接触する場合は必ず一人でこい。武装もするな。時間は深夜一時、この鳥を送った場所に来ること。不審な動きを見せれば即刻集落を移転、外部との接触を今後一切行わない。
一方的な対応になる。それでも面と向かって話をしたいというなら、我々は歓迎しよう』
「これは……」
「警戒されてるね……でも、このままじゃあっちも場所を変えて話し合いには応じてくれないだろうし、話さなきゃ何も分からない。……私は行くべきだと思う」
「……でも、誰が行くの?私は《暗視》使えないから夜目が効かないし、話し合いならなおさら……」
「ああ。俺みたいなアホが行ったところで話にならん。可能性があるのはレイチェルとマルクくらいだろ」
「私が行く」
「……そう、なるな。話し合いなら俺も行きたいが……ここは手紙を書いた本人が行くのが筋だ。信用されなきゃいけないこの状況でレイ以外を送り出すのは逆効果だろう」
ここは信用されることが最優先、多少の無理は押し通さなきゃいけない。
「っ……」
「……ごめん、桜華。歯がゆいと思うけど、待ってて欲しい。絶対成功させるから」
「……レイチェルがそう言うならきっと上手くいくのでしょうね……わかりました。ただ森の近くで待ってます。何かあったらすぐ呼んでください」
「うん、ありがとう。それじゃ……決まりかな」
今後の動きは決まった。
あとは、会談を成功させるだけだ。
そうして時間は過ぎ、時間になる。