7-51 博物館
「あれが……」
翌日早朝、事前に調べた座標、様々な魔道具が保管されている博物館と思わしき建物の前で立ち止まる。
外見は立派な館に見える──壊れる前なら。
博物館は何があったのか問いただしたくなるほどボロボロだった。
窓は割れ、ドアは外れ、外から見ただけでも中までぐちゃぐちゃになってることが良く分かる。
「……とりあえず行こっか」
まあ、何にせよここで立ち止まってても仕方ない。とりあえず入ってから考えよう。
「すいませーん!」
玄関の前で立ち止まり、声をかける。
「──はい、お待たせいたしました。ギルド『アンブロシア』の方でよろしいでしょうか?」
「はい」
「分かりました。要件は隷属機についてですね。ご案内させていただきます」
メガネをかけた男性に案内される。
ここの管理人とか、そんな立場の人なんだろう。
「こちらが隷属機が保管されていた場所になります。……すみません、できれば実物がある状態でご案内させていただきたかったのですが……」
「大丈夫です。今回は盗まれた状況も含めて調査に来てますので。盗まれた当時の状況を聞かせて貰えますか?」
「分かりました。隷属機の模写や起動実験等の資料もございますが、ご覧になられますか?」
「お願いします。レイ、資料の方は頼む。俺は盗まれた時のことを聞いてくる」
「わかった」
流石マルク……この手の対応は慣れてるんだろうな。
男性から資料を手渡され、それぞれ分担して読み込んでいく。
そうして資料に目を通すこと約三十分、得られた情報は約三つ。
一つ目、隷属魔術の魔道具……隷属機の模写をした資料から、形状は刃の無い剣と針のようなものだとわかった。
聞いてみたところ、隷属魔術は対象者に魔方陣を刻んで、それを術者が起動することで成立するらしい。針はタトゥーとして魔方陣を刻み込むための道具らしい。
『ラタトスク』で捕まった奴隷の子供達の背中に魔方陣が刻まれていたのはそれが理由なんだろう。
二つ目、効果の仕組みについてだ。
光、闇、無属性の三属性が混ざっていることは分かってた。だけどその具体的な効果についてはあやふやなままだったんだけど、資料に具体的な効果が記載されてた。
光と闇で対象の精神状態を調整、無属性で命令を送信する仕組みらしい。
そもそも光と闇属性は精神的なバフ、デバフを操ることが得意な属性で──もちろん物理的な効果を及ぼす術式もあるけど──光は主に興奮、希望、愛情、勇気といったプラスの感情を、闇は恐怖、絶望、悲哀、諦観といったマイナスの感情を操作できる。
今回はその二つの属性で洗脳状態にするのが目的完だろう。
三つ目、抵抗可能かどうか。
これに関しては成功例が確認できてるらしく、資料に記載があった。
そして同時に逆に精神が弱ってるときにかけるとより効果が大きくなることも確認されていた。
そして次に、マルクが聞いた話からの情報だ。
襲撃は早朝、まだ人は殆ど居ない時間に十数名の賊が押し入ってきたらしく、抵抗せず隠れていたところ、隷属機が奪われていたらしい。
覆面を被っていたということもあり顔は分からず、名前も分からないそうだ。
まあ多勢に無勢とも言うし、無理に抵抗しなかったのは正解だったと思う。
ただ、盗まれたのは隷属機だけだったらしい。
やっぱり情報が漏れてるとしか考えられないな……
「すみません、私からはこの程度の情報しか提供できず……」
「いえ、十分です。とても有意義な時間でした。本日はありがとうございました」
「いえいえ、機会があればまたいらっしゃってください。その時は、本来の姿で歓迎させていただきます」
男性に見送られ、博物館を後にする。
「この後はどうするんだ?」
「んー……とりあえずお昼ご飯食べに行きたいけど……帰りに寄せ書き看板?みたいなところに寄っていこうかなって思ってるけど、いい?」
「俺は構わないが」
「私も~」
「俺も別に。それでいいぜ」
「私も構いませんよ」
「じゃあ決まりかな」
帰りの足で寄り道することが決まる。
聞き込みしてた時、いろんな情報が書き込まれる看板みたいなものを扱ってるお店があるって教えて貰ったのだ。
どんな情報が書き込まれてるかは場所と時間次第だけど、少しでも情報が得られる可能性があるなら見に行くに越したことはないだろう。
そうして看板巡りが始まった。