7-44 門戸
結局あの後ヒナとも戦ったんだけど……うん、色々凄かった。
ヒナも魔術主体で遠距離から攻めてたんだけど……体力が流石に底をついたのか、遠すぎたから持久戦に持ち込みたかったのか、水晶で盾を作って守りを決め込んでた桜華を崩せずに不死鳥を使おうとしたところで──
「お前ら!何やってんだ!」
止められた。それもギルド長のカイさんに。
「あのな?ここってあくまで修練を積む場所で、人外バトルする場所じゃねぇの。もうほら、地面抉れてるだろ?加減は考えろよ?」
……うん。大体その通りだ。
マルクが地面を使って攻撃したから所々抉れてるし、私が思いっきり戦ったから周りの建物が凍りついてるところもある。
だけどここまでならまだ還元したりして復元できる。
けど……最後のヒナがやらかした。
まず騒音、次に火事未遂、三つ目に器物破損だ。
火事は燃え移りそうなのを私が止めたけど、爆発系の魔術を使ったせいで爆発音が響き、衝撃で窓ガラスが割れた。
うん。完全に私達が悪い。
「マルク、ガラス作れたよね」
「ああ」
「枠は私が作るから直しちゃおっか」
「だな」
木属性はそこまで得意じゃないけどこれくらい簡単なものなら作れる。
わざわざ発注するのも面倒だし自前でつくっちゃおう。
「んー……こんな感じかな。マルク、ガラスお願い」
「分かった」
私が直した窓枠にマルクがガラスを嵌め込み、元通りに直る。
簡単な構造でよかった。
「よし、それじゃギルド長室に来い。色々話をしよう」
話をしよう……ってことは桜華、転移者関連の話かな。
多分忙しい中わざわざ時間割いてくれてるだろうし、色々決めてしまいたいな。
「……さて、お前らどこまで話した?」
「私の記憶を共有してるので大体の事情は知ってるはずです」
「そうか……次の層に進むための条件もか?」
「……はい。レイチェルの記憶で見ました。それにその記憶は私にもあります。私が生きている限り二十一層への道は開かないと」
「なら話は速いな。条件は変わってないか?」
「はい。転生者と一定期間過ごしたあと自殺するか、転生者、もしくはその仲間に殺されること、ですよね」
かつての手紙に書かれた条件を一言一句違わず言って見せる。
やっぱりその条件は変わらないらしい。
「ああ、その通りだ。端的に言うと、俺達はお前を殺さないといけない。けど、それまで猶予がある。できる限り要求には答えよう」
「ありがとうございます。……けど、いいんですか?条件的にはレイチェルがやれば問題ないはずですけど……」
「……俺達もな、一方的に殺すようなやり方は選びたくないんだ。分かり合おうともせず、平和的な解決への道を探さずそれをするのは、人のやることじゃない。できるだけ互いになっとくの行くやり方でやりたいんだ」
「……ふふっ、では、一つお願いがあります。私も人生をそれなりに武術に捧げてきた身です。自分より弱い人に負けるつもりはありません。一対一でも、多対一でもいいです。私を殺すのは私を打ち負かせるくらいに強い人がいいです」
桜華より強い、か……今日の戦いを見る限り、追い付けるか分からない。最低でも数ヶ月はかかる気がする。
少なくとも、あそこまでこっちの出方を見て、必要最低限の魔術しか使わない、手を抜くような戦い方をされて私たちの方が強い、なんて口が裂けても言えない。
道のりは遠いな……
「……お眼鏡に叶うといいがな」
暗い沈黙が流れる。
正直、カイさんの槍とか反則はやろうと思えば色々できる。
でも、ここにいる全員そんなことをするつもりはない。
だからこそ、沈黙が流れる。
今日の模擬戦の結果を聞けば、桜華に勝つのがどれくらい難しいのか察しがつくだろう。
「オウカ……いや、オウカさん、一つ頼みがある」
「ベイン……?」
「こんなこと聞いた直後で、タイミングがおかしいのも分かってる。でも、今言っておきたい。今を逃せば頼める気がしないんだ。だから今、言わせてくれ。──俺に、剣を教えてくれ」
突然喋りだしたと思ったら、とんでもない頼み事が始まった。
「おいおいベイン、それはなんでも──」
「いいですよ」
「は?」
「いえ、今回の件と剣を教えるのは別です。それにもともとうちの流派は来るものを拒みません。門戸は誰にでも開かれてるんです」
「いいのかそれ……」
「教えを請う者に忖度はしません。それは武術の精神に反しますから」
「はぁ~……まあ、なんだ、よかったな」
「……ですね」
多分本人も断られると思ってたんだろう。だから今後の動きを決めるこのタイミングで言ったし、断られる前提で考えてた。
でも流石に予想外すぎるな……ていうかこれ……
「それって私も教えてもらって良いの?」
「はい、もちろん」
やっばりか……
正直、今はなんでも良いから強くなるのが最優先だ。使えるものは全部使わなきゃいけない。
今後の動きが大きく変わるぞ……