7-43 対人戦
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
氷で作った刀と村雨を構え、開始の合図を待つ。
「──始め!」
「《霜獄の領域》──」
開始と同時に冷気で場を満たし、有利なフィールドに書き換える。
そして《飛翔氷剣》を複数展開し、多対一の状況を作り出す。
さらに《氷結拘束》も使って妨害する。
今回は加減を考える必要はない。全力でやろう。
「これは──っ!」
不意打ち気味な《氷結拘束》が右手を縛り付ける──が、ほぼ同時に左手で握った刀で破壊される。
そんな簡単に破壊できる硬度じゃないはずだけど……まあいいか。
その破壊する時間で、次の攻撃に移れる。
「行け!」
「っ!」
作り出した《飛翔氷剣》六本を、二本一組の三ペアに分けて攻撃する。
ただ攻撃するだけじゃ弾かれて終わりだ。最低でも二方向から攻撃しないと効果はないだろう。
狙うのは、《飛翔氷剣》と《氷結拘束》での拘束と制圧、もしくは二つで作った隙をついてのとどめだ。
これを狙える隙を作れるまでは無理に近づかず、魔術主体で戦おう。
「──ふっ!」
「そう、来るよねっ!」
この戦い方は術者がやられると全部止まる。それは桜華も分かってる。
だから、《飛翔氷剣》の相手は必要最小限で、術者を狙ってくるのは分かってた。
だから、《飛翔氷剣》を一組手元に残しておいたし、私には距離をとる手段がある。
まだ距離は取らせて貰おう。
「《空間歪曲・圧縮跳躍》」
空間属性の魔術で一瞬にして距離を離す。
これでまだ私のターン──
「っ!?」
移動した直後、水晶のクナイが飛んでくる。
幸い、《空間把握・二重展開》を使っていたお陰で反応出来たが、重要なのは弾いたという結果より、対応されたという過程だ。
……読まれた。記憶を見せたから手の内がバレてるのは仕方ないとしても、初見で追撃されるとは思ってなかった。
何で読まれた……?
「……目線?」
無意識の内かもしれないけど、目が移動先を追ってたかもしれない。
だとすると、それを読まれたかも。
なら──
「──気づかれましたか」
「正直、ちょっと怖いけど動きを読まれるくらいならね……」
視界を完全に《空間把握》に任せ、目を瞑る。
……怖い。見えるとはいえ、生まれたときから付き合ってきた感覚を戦闘中という場面で手放すのは流石に怖い。
でも──いける。
魔術の視界をもう一段強化する。
「《空間把握・四重展開》」
ああ──よく、視える。
範囲の制限付き、長時間の使用も難しい、でも、対人戦闘という場面においてこれほど視えるというのは相当なアドバンテージになるだろう。
桜華が《氷結拘束》を避けるため次に踏み出す足も、投げるため水晶でクナイを作るところも、桜華の動きがよく視える。
まるで小手調べと言わんばかりにクナイを何本か投げつけてくるが、全部弾き落とす。
そして反撃で二組の《飛翔氷剣》で攻撃する──が、難なく躱される。
流石に遠隔攻撃だけじゃ決め手にならないか?
さっきから何回か《氷結拘束》が当たってるけど、すぐに破壊されて次に繋がってない。
《飛翔氷剣》にいたってはさっきので一本持っていかれた。
……ジリ貧かな。なら──
「っ!」
一本の《飛翔氷剣》を起点に魔術を放つ。
完全に不意打ちだ。体勢も崩れてる。
今なら──いける!
空間魔術で距離を詰め、刀を振り抜く。
「嘘っ!?」
完全に体勢は崩れてた。同時に《飛翔氷剣》で攻撃もした。
なのに、止められた。
氷剣は避けられ、刀を振り抜く手は掴んで止められた。
「くっ──」
「掴めばこっちのものです」
手首を捻り上げ、刀を手放させられ、そのまま組み伏せられる。
「ぐっ……!」
「……そこまで!」
「駄目か……」
「最後の詰めで焦りましたね。自分を巻き込む可能性があるから氷剣の動きが甘かったです。それに、一本破壊した時点で仕掛けてくるのは予想できました。そのまま続けてもジリ貧ですから」
「そっかぁ……」
完全に読まれてた。
あと一手、届かなかった……
「あのまま氷剣で攻撃すればよかったんです。私は三連戦で体力を使ってるので」
「あ……」
確かに……でも魔力の消費も大きいし、どっちが先に息切れするかと聞かれると微妙なところだと思う。
「はぁ……まだまだかなぁ……ありがとうございました」
「ありがとうございました」
試合が終わり、反省点の洗い出しが始まった。
対人戦の経験が少ないのもあるだろうけど……焦ったな……
それにもっと上手く動かせば氷剣だけでも決着も狙えたかもしれないし、単純に技術の問題もあるのかもしれない。
改善点は多いな……