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7-41 愁傷

 薄暗い迷宮第十層で、花を供え、屈んで手を合わせる。


 桜華も、アルに何か思うところがあるのかもしれない。

 聞いたところによると身体変化の魔術もアルから使い方を教わったそうだし、記憶の最後のシーンだとボロボロになった桜華を助けたのもおそらくアルだ。桜華にとっては、仲間というより師匠的なポジションなのかもしれない。


 ただ、それだけに死んでしまった、自殺を選んだという結末が残念だったんだろう。あれからテンションが低い。

 話した限りだと桜華にアルの選択を否定するつもりも、非難するつもりもないのはわかる。でも複雑な気分なんだろう。

 かつての仲間が、自分を助けてくれた恩人が、酷な選択を自分で選んだという結末をどう受け止めるか、そこがまだごちゃごちゃしてるのかもしれない。


「……すみません、つきあわせてしまって」

「うんん。私も一回行かなきゃとは思ってたし気にしないで」

「……ありがとうございます」


 少し気まずい空気が流れる。友達が喚んで来た友達と二人きり、共通の知人がいなくなったみたいだ。

 ……ちょっと洒落になってないけど。


「無理を、させていたんですね……」

「アルに?」

「はい。負担をかけてるのも、旅をするのがアルカディアの本心じゃないことも知ってました。でも心の何処かで、無意識のうちに、この人なら大丈夫って、思ってたのかもしれません」

「……アルはさ、多分優しかったんだよ。自分より他人を、一つより多くを、本気でそう考えられる人だった」

「……はい。私もそう思います」

「だからさ、勇者の責務も断りきれずに受けたし、他の転移者を探して旅をしたし、……最後は、あの選択をした」

「……はい」

「結果的にはあんまり良い結末じゃなかったかもしれない。アル本人は死んで、世界の危機はまた迫ってる」

「そう、ですね……」

「でもさ、そうした理由って、突き詰めると他人への優しさなんだよ。周りのせいにするんじゃなくて、周りに押し付けるんじゃなくて、自分だけで完結させた。その行動全部がアルの優しさから来てるんだと思う。──だからさ、私達がどう思うかは私達の勝手だけど、善意の塊の結末を、悲しむのは違うんじゃないかなって思うんだよね。きっとアルもそんなこと望んでないし、私達が暗いままじゃアルも浮かばれないっていうか、そんな気がする」

「──そう、ですね。……前にも同じようなことをアルカディアに言われた気がします。だから……これ、使ってください」

「え──?わ、たし──」


 差し出された手にはハンカチがあった。そしてそれと同時に自分が泣いてることにも気づく。


「……ごめ──じゃないね、ありがとう」

「はい。謝ってばっかりじゃ暗いままですもんね」


 語るに落ちるとはこのことだ。自分で言っておきながら自分が落ち込んで、励まそうとしておきながら励まされてる。


 ……まだ、乗り越えられてないのかもしれない。一人の友人の死を完全に受け止めるにはまだ時間がかかるかもしれない。


 ──でも、いつか笑って墓参りできるくらいにはなってみせる。


 そう意気込みながら、借りたハンカチで涙を拭うのだった。

















 あれから地上に戻り、ギルドまで歩いて帰ってきた。


「……あ、そういえば」

「ん?どうしたの?」

「外で体を動かすというお願い、覚えてますか?」

「あー……いつでもいいよ?訓練場は二十四時間開放されてるし」

「だったら今からでもいいですか?」

「うん。三人も呼んでくる?」

「そうしましょう。人数は多いほうが楽しいですから」


 帰ってきた足でそのまま三人に声をかけ、訓練場に出る。


 天気は快晴、他の利用者もいない、暑くもなく寒くもなく、理想的な状況だ。


「で、なにすんだ?組み手か?模擬戦か?」

「なんでもいいですよ。ただ強いて言うなら、まだベイン達の実力を良く知らないので模擬戦をやりたいですね」

「上等。タイマンでやるぞ。なんでもアリでいいんだな?」

「はい」

「魔術も暗器も?」

「はい」

「……ふん、やってやろうじゃねぇか。一番手は貰うぞ」

「構わない」

「いいよ」

「どうぞどうぞ」


 本当に自分の流派の開祖なのかと疑ってかかるベインに一番手を譲り、観戦に回る。


 こうして桜華の戦いを見るのは何回目だろう。

 あの道場で、襲撃を受けたとき、子供達に教えるとき、それぞれ違った面を見せてくれた。


 今回はどんな戦いをするんだろう。



 その技を一つも見逃さないよう、集中を極限まで高め、視る。

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