2-16 久しぶりの外食
「ここが先生の行きつけのレストランです」
昼食にするということでミシェルに連れられレストランに来た。
文房具屋のときのような厳かな雰囲気はなく、看板のメニューは一般的な料理が多く、値段をみる限りどれも良心的だった。
庶民向けの食事処のようだ。
さっきまでとのギャップが凄い
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「4人です」
「4名様ですね、でしたらあちらの席にどうぞ」
お昼時ということもあり混雑してるため手早く席に通される。
待ち時間がなかったのはラッキーだったな。
4人席に二対二で向き合うように奥からミシェル、私、通路側の席にマルクとヒナが座る。
「はい、メニューどうぞ」
ミシェルが2つあったメニューを広げ、ミシェルと一緒にメニューに目を通す。
定番の定食に季節限定のメニュー、お子様ランチまである。
二年前、両親と外食したことを思い出すな。
正直あの時から食べる量は変わってないのでお子様ランチでもいいのだが……ふむ、他のメニューも悪く無さそうだ。
この季節のランチ定食とか美味しそうだな。あ、でもこのメニューは今の時間限定だ、ってこれ日に個数限定で販売される料理じゃん、まだ残ってないかな……
「レイチェルさんは決まりましたか?二人は子供定食にするそうですが……」
「え、あえっとじゃあ私も同じで」
しまった。びっくりしてとっさに適当に返事してしまった。
こういう優柔不断な性格は前世から変わってないんだよなぁ。
というか二人は子供定食──お子様ランチなのか。
ヒナはともかくマルクはなんか意外だ。
「すみませーん」
「はい、ご注文でしょうか」
「はい、子供定食をみっつ、このランチを一つお願いします」
「かしこまりました、こちらの定食はドリンク付きです。ぶどう、りんご、みかんの3種類から選べますがどうなされますか?」
ドリンクとかついてたのか。というかジュースとか飲むのこっちの世界にきてからだと初めてじゃないか?
「私はりんごで。3人はどうする?」
「みかん!」
「ぶどうで」
「……りんごでお願いします」
「かしこまりました。料理が来るまでお待ち下さい」
ものの見事に分かれたな。
私がりんご、一番に答えたヒナがみかん、マルクがぶどうだ。
果物はこの世界じゃぜんぜん食べたことがないからかろうじて食べたことがあるりんごを選んだのだが……3人は食べたことがあった上で選んだのだろうか。
まあ注文しちゃったしもういいか。
「そういえばこのあと行きたいところがあるって言ってましたけどどこに行くんですか?」
「あ、それ私も気になってた」
マルクが忘れかけてた疑問を投げかける。
もう正直服屋じゃなければどこでもいいのだが……
「あー、それは……まだ秘密で」
若干笑いがこぼれてるミシェルの表情に背筋に寒気が走る。ハラハラするからさっさと言って欲しい。
「おまたせしました、子供定食3つとランチ一つです。ドリンクがりんご2、ぶどう1、みかん1です。
ご注文のものはこれで全てですか?」
「はい、ありがとうございます」
「ではごゆっくりどうぞ」
配膳された定食を見るとカレーライスの上に小さなハンバーグが載せられている。やっぱりこの世界でも人気なんだろう。
それとやっぱり目を引くのは3色のジュースだ。
見た目は前世と変わらない。初めて飲むものなので少し躊躇う。
……まあ最悪治癒魔術つかって治せばいいか。
覚悟と保険を決めてストローに口をつけ吸い上げる。
「これ、美味しい」
「ああ、俺もあんまり飲んだことがなかったがやっぱり美味しいな」
「ええ、美味しかったならよかったです」
マルクも共感してくれた。ヒナは既に飲み干して料理を口いっぱいに詰め込んでいるため返事はない。
貴族出身のマルクでもあまり飲んだことがないということはやっぱりぶどうやみかんといった果物自体が貴重か加工技術が発展していないかのどっちかなんだろう。
というかミシェル、顔に出てるぞ。着せ替え人形にしてきたときの趣味全開の顔だ。怖いからやめてくれ。
ていうか前世のものよりおいしい気がする。こころなしか前世より濃厚な味がする。
人工甘味料とか作られてないからその分濃度が高いのかな?
結局、衛生面とか気にしてたのが嘘みたいにあっさり飲み干してしまった。
まあなんかあったら自力で治すしそれで駄目だったら保健室まで走るだけだ。
それに売りに出すということは衛生面は確保されてるはずだし大丈夫か。
また機会があったら飲もう。
さて、ジュースばかりじゃ腹はふくれないし栄養も取れない。ちゃんとメインの料理を食べよう。
カレーも食べるのは久しぶりだな。スパイスの効いたいい香りがする。
ただ味はちゃんと子供向けで甘めだ。
甘めのルーと合わさってハンバーグも美味しい。
調理法にも拘っているのか肉汁が溢れ出てくる。
お子様ランチといっても料理の数々完成度は高い。
歩き回り着せ替え人形にされ疲れた体に染みる。
十分もしないうちに空腹だった腹に簡単に収まってしまった。
全員食べ終え店員に見送られながら店から出る。
次は──そうだった。行き先不明だ。
あのミシェルの顔がフラッシュバックする。
結局行き先を聞き出すことはできないまま、一抹の不安を胸に抱きながら次の目的地へと足を進める。